16世紀から始まるイギリスにおける簿記書の出版は、ヨーロッパ大陸からの影響が強く、その集大成ともいえる著作が1635年にロンドンで出版されたダフォルネ『商人の鏡』である。ダフォルネは同書において、大陸側で出版された簿記書について取り上げている。さらに、ダフォルネの著作では、イギリスで出版された過去の簿記書についても言及されている。このように、ダフォルネの著作は、大陸との接点のみならず、過去のイギリスにおける簿記書との接点を有しており、17世紀イギリス簿記書の発展に関して重要な役割を果たしたと考えられる。
ダフォルネ以後、17世紀イギリスではヨーロッパ大陸から取り入れた簿記システムを自国の社会環境へ適応させる試みがみられた。具体的には、元帳のみを用いた取引の複式記録や簡略化された複式簿記の考案などが該当する。また、記帳対象となる取引内容の拡大に関する試みを挙げることができる。ダフォルネ以前の著作は、商人に係る取引の簿記処理を中心に解説が行われていたが、『商人の鏡』以後、イギリスで出版された著作では、船舶を共同保有する組織体の取引、紳士階級の人物の取引、染色業者の組合における取引、若者の取引、農場経営者の取引および手職人の取引等に係る簿記処理が説明されている。このような取り組みは、簿記システムを自国の社会環境に適応させたものであると言える。
本書は、17世紀イギリスで出版された簿記および関連著作について、ダフォルネ『商人の鏡』を出発点としてハットン『商人の雑誌』に至るまで出版年順に考察を試みたものである。各著作の考察に際しては、概要のみならず、簿記システムの記録・計算構造、帳簿組織および記帳事例についても詳細に取り上げることを心掛けた。特に当時の簿記書は記帳事例の解説を中心として記述されている傾向にあるため記帳事例の研究は重要であると言える。
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