なぜ“発達障害”と診断されることを望むクライエントがいるのか?
著者がセラピストとして,仕事の中で感じたこのような問いをきっかけに著された本書では,発達障害を自認する未診断の成人を対象とした心理面接事例をもとに,発達障害という言葉によって構成される現実に焦点を当てるナラティヴ・アプローチの実践により,心理面接を行ううえで留意すべきポイントと適切な関わり方が示されている。
発達障害概念の変遷を辿り,臨床実践上の課題を探る文献研究を展望し,発達障害診断によって,クライエントが帰属する社会や生活圏においてどのように障害への意味変容が起こりうるのかを臨床事例に沿って丹念に掘り起こす。最後に発達障害診断が社会的・文化的な文脈によって方向づけられる可能性や発達障害という概念に内包される時間性の問題について考察し,今後の臨床実践への展望が語られる。
序 章
1 はじめに
2 問題提起
3 本書の目的と概要
第1章 発達障害を自認すること
1 自分は発達障害ではないか?
2 発達障害概念の変遷
3 4つの母集団
4 知的な障害を伴わない発達障害
5 社会構成主義の視点
第2章 言葉がつくる複数の現実
1 病名を問われるということ
2 Kraepelinの理想
3 発達障害の起源と近年の状況
4 疾患か症候群かーー統合失調症
5 疾患か症候群かーー自閉スペクトラム症
6 4つの現実
7 発達障害がつくる現実
第3章 発達障害と発達歴の聴取
1 検討すべき課題
2 文献展望における手続きの概要
3 数的検討の結果
4 対象事例の稀少性
5 なぜ研究対象とされにくいのか
6 発達歴の聴取と臨床実践上の課題
第4章 発達障害の自認とアイデンティティの再構築
ーー個人特性から文化的摩擦への転回
1 問題の所在
2 事例の概要
3 面接の経過
4 考察
第5章 心理・身体・社会的な自立
ーー母親および恋人との交渉を通じた世俗的なストーリー
1 問題の所在
2 事例の概要
3 面接の経過
4 母子間のストーリーの交渉
5 恋人が伝えたかったこと
6 新たな自己の輪郭
第6章 障害受容と生活感のあるナラティヴ
ーー母親に発達検査を勧められた女性の「ショック」の意味の多重性
1 問題の所在
2 事例の概要
3 面接の経過
4 クライエントにおけるショック
5 母親におけるショック
6 生活感のあるナラティヴ
第7章 成人の発達障害臨床への社会文化的な視点
1 総合考察の構成
2 ナラティヴ・アプローチの実践
3 診断における社会文化的な文脈
4 発達障害と時間性
5 誰によって認識された発達障害か
6 臨床実践における有意味な関わり
7 今後の課題と展望
おわりに
謝 辞
引用文献
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