ジャック・デリダ「差延」を読む
: 森脇透青/西山雄二/宮崎裕助/ダリン・テネフ/小川歩人
「ジャック・デリダのすべてが『差延』に集約されるのではなく、デリダのすべてが『差延』から出てくるのだと主張しておかなければならない」(ジャン=リュック・ナンシー)。
20世紀フランス現代思想の代表的知識人ジャック・デリダ。その名前は「脱構築/ディコンストラクション」の思想とともに、現在でも広く知られる。デリダの思想の影響は、哲学のみにとどまらず、文学理論、政治、法哲学までに及ぶ。日本の思想家への影響は、蓮實重彦、柄谷行人、高橋哲哉、小林康夫、鵜飼哲、浅田彰、東浩紀など幅広い。また近年においても、若手研究者が増加している。
そのジャック・デリダが、若干38歳の時に発表した「差延」は、当時のフランス哲学の錚々たる研究者(権威)の前で発表された。デリダが、何を語ろうとしたのかは、未だ多くの謎を残す。この「差延」論文を精緻に読み、詳細な解説・講演を行ったのが、若手デリダ研究者(京都大学大学院博士課程)の森脇透青である。また、森脇の講演に対して、宮崎、テネフ、西山、小川といったデリダ研究者が丁寧に応える。7時間を超えるシンポジウムの全記録に、森脇をはじめとして発言者が大幅に加筆。
当時、フランス哲学会の重鎮たちが、新進気鋭の哲学者デリダの発表に、どう反応したのか。日本語未邦訳の発言も多数紹介。
本書は、最新のデリダ研究への誘いの書となる。最もわかりやすいデリダ入門であり、初学者が紐解ける〈哲学入門の書〉である。
レビュー(1件)
禅宗、精神分析、短歌は、無に手を合わせて、沈黙の力で耐えるという構造をしています。ベケットもそうですね。ベケットの文章も、沈黙を守りながら、波の中に消えていく、そのような時間稼ぎなんです。 私、ほとんど千年後には今の憲法学や国際法学は、なくなっていると思うんです。唯一、沈黙の力に頼った者だけが生き延びるんです。このことはオイデプスとイオカステの物語から明らかであります。 象徴界の復権は聞こえはいいのですが、その魔術的な力をインターネットの幻想で満たすのはあまりにも見苦しいですね。インターネットには、あそこには沈黙がない。だから、千年後にはほとんど死に絶えているでしょう。 無に対して、沈黙をもってして耐える。差延には、沈黙による時間稼ぎという側面があると思います。こういうところがフランスの良いところですね。 他方、アメリカ人たちの会話を聞いてみればわかりますが、そこには沈黙の力がない。瞬間的で爽快で、即効性のある道具でしかない。ストロングチューハイみたいな道具としての言葉を使っておるんです。 言葉には臓器を満たすところがある。うるおいがあるのです。他の享楽を満たす言葉の力があるんです。ギリシアの古代人は謙虚でしたから、オイデプスの物語によって沈黙の力が生き残ることを託しました。ですが、どうでしょう。ウクライナとロシアの戦争を見ればわかるとおり、その努力さえ失敗に終わったのではないでしょうか。無に対して、沈黙を守り、さざ波の中に消えていく、それも際限なく戦争を終わらせていく姿勢が求められているのだと、私は思います。差延は、そのひとつの姿勢なんですね。私の偏見ですが。