本書は、会計数値に与える利益調整の影響が企業価値説明力にどの程度の差異をもたらすかについて、第一に利益調整の存在、第二に会計数値への直接的な利益調整の影響という2つの角度から分析を行ったものである。
周知のように利益調整と企業価値関連については、すでに多くの研究がなされ、頑健な証拠も提示されている。従来の研究では、企業価値の測定要因の一つに会計数値があり、会計数値は利益調整の影響を受けるものでありながらも、利益調整と企業価値は別々に研究がなされ、両者を関連させて検証したものはほとんど存在していなかった。したがって本書の特徴は、利益調整と企業価値を関連づけて、利益調整の存在ならびに会計数値における利益調整の程度の大きさが企業価値の説明力に差異を及ぼすか否かを検証している点にある。
まず利益調整の存在については、利益調整の動機のうち予測利益達成のための動機をとりあげた。その理由として、わが国は決算短信を通じて主要な会計数値の業績予想が公表され、経営者による予測情報は容易に入手することができる情報だからである。また財務会計がもつ役割の一つに情報提供機能があるが、経営者による予測利益情報は、投資意思決定において有用な情報を提供していることが明らかにされているからである。
予測利益情報は投資家の意思決定に有用であると同時に、経営者が達成すべきベンチマークの一つともなっている。その背景には、予測値を達成することができなかった場合に生じる、マイナス方向へのアーニングス・サプライズつまり株価下落の回避がある。経営者はそうした状況を回避するために利益調整を行い予測値に近づけるような行動をとるのである。投資意思決定に有用であるとされる会計情報に利益調整の存在が疑われる場合、それらの企業の企業価値説明力は低下するのであろうか。本書では経営者が行う予測利益達成のための利益調整について、総合的な検証を試みている。具体的には1990年代に盛んに行なわれた資本市場研究による手法を使用して予測利益情報の有用性から検証を始めて、利益調整の存在の確認、企業価値説明力の差異を検証している。
他方の会計数値への直接的な利益調整の程度については、損失回避の利益調整動機をその対象としている。利益調整の分析手法を、大別するとヒストグラムによる分析と裁量的発生高による分析に分類される。本書では利益調整の存在についてはヒストグラム、会計数値への直接的な影響は裁量的発生高によるアプローチで利益調整を分析した。
本書の結果からは、予測利益を達成するような利益調整の存在が明らかな企業における企業価値説明力が低下しており、損失回避の利益調整については当期純利益および当期純損失が少額な企業が、多額の裁量的発生高を計上するような利益調整を行っていることが明らかにされ、そうした企業における会計数値の企業価値説明力は低下していた。すなわち、利益調整を行っている企業の企業価値説明力は相対的に低下していたのである。
レビュー(0件)