長崎を舞台とした「最後の殉教者」『沈黙』『女の一生』といった小説を中心に、作家が創作過程で参照した資料・史料を特定し、緻密に照合することで、作品への摂取状況を実証的に明らかにする。その反映は小説の骨格から細部の表現にいたるまで、様々な次元に及んでいた。さらに個々の作品分析を通して、遠藤文学のテーマが日本人としてのキリスト教受容にあったこと、背景にはトマス・アクィナスへの躊躇とアウグスティヌスへの信頼があったことを検証する。それはまた、許す神、母の宗教という本質を託した〈母なるもの〉の形成過程の探究でもあった。
凡 例
序
第一章 切支丹物のはじまりー長崎、そして〈浦上四番崩れ〉-
第一節 「最後の殉教者」論ーその役割と原拠についてー
第二節 明治政府と〈浦上四番崩れ〉-「最後の殉教者」と『女の一生 一部・キクの場合』-
第二章 『哀歌』-『沈黙』の前奏曲としての役割ー
第一節 「札の辻」論ー江戸の大殉教との関係からー
第二節 「雲仙」論ー参考資料との関係を中心にー
第三節 『哀歌』から『沈黙』へー〈踏絵〉というドラマについてー
第三章 『沈黙』-資料のなかの登場人物ー
第一節 概論、諸資料との関わりから
第二節 フェレイラ、そして沢野忠庵
第三節 キャラ、そして岡本三右衛門
第四節 長與善郎『切支丹屋敷』との関係を中心に
第五節 芥川龍之介「神神の微笑」を視座として
第四章 「母なるもの」と周辺作品ー日本人と〈母の宗教〉-
第一節 「母なるもの」論ーカクレキリシタンを創るー
第二節 『哀歌』から「母なるもの」へー描かれた父像を中心にー
第三節 『哀歌』論ー〈母なるもの〉の形成と行方ー
第五章 『女の一生 一部・キクの場合』-キクの献身、清吉の帰還ー
第一節 「キク」の時間、長崎の風物を中心に
第二節 〈浦上四番崩れ〉を巡って
第三節 津和野配流以後
第六章 『女の一生 二部・サチ子の場合』-コルベ神父と修平、それぞれの殉難ー
第一節 コルベ神父の長崎時代
第二節 アウシュヴィッツのコルベ神父
第三節 コルベ神父から修平へ
第七章 〈合わない洋服〉-トミズム(Thomism)と「日本的感性」-
第一節 トマス・アクィナス受容の歴史を軸に
第二節 トマス・アクィナスとアウグスティヌスーその躊躇と信頼ー
第三節 補論、拠り所としてのアウグスティヌス
主要参考文献
あとがき
初出一覧
レビュー(0件)