池井戸潤の進化の過程

半沢直樹シリーズから池井戸作品に触れ、その後も長編で読み繋いだため、短編集と池井戸作品の相性に少し懐疑的でした。長編で描かれるような逆境の数々や巨悪との戦い、そしてわずかな手がかりからの逆転などが短編ではとても描き切れないのでは無いかと思っていました。 しかし、それは全くの杞憂でした。 むしろ、池井戸潤は短編にこそ真の適正があるのでは無いかと思うほど見事な筆致で描かれ、一話一話の読み応えはもちろん、連作としても楽しませる点は大変なテクニックだと思います。 本作品は2003年初版ということで、「果つる底なき」に代表される「金融ハードボイルド」の風味を強く残した作品となっています。 「果つる底なき」からの最も大きな変化は情景描写を抑えるようになり、その分心理表現を重視するようになった点でしょう。短い語数で感情移入させるすべは「銀行狐」や「銀行総務特命」など一話完結ものを書くようになってから少しずつ変化したものと思われます。その後、ハードボイルド的な暴力要素を抑え、その分のカタルシスを主人公による「完全論破」で表現したのが半沢シリーズではないでしょうか。 恋窪商太郎が後の半沢直樹に進化していくと考えると、大変楽しく読めると思います。