人生は変えられる。
「本を読んだことのない人にも読めるように」と筆者が語るように非常に読みやすく、量も考えて書かれている小説だが、内容は全くもって薄くない。
大概自分に都合の悪い事は隠し、ぼかし、小さくし、何かのせいにするだろう。自分もそうだ。
しかしこの主人公はまるで逆だ。被害者から加害者へ自分のスタンスを変えると、自分だけがやったのではないこと、自分の責任ではないこと、陥れられたことや誰かを恨んでもいいこと、言わなければわからなかったことまでも背負って生きていくと決め、淡々と描きだす。まさにむき出しだ。
全てむき出したからこそ、その罪、生まれ育った壮絶な環境、生きてきた世界の存在の現実、そしてその世界との分断を、捉え考えてほしいという筆者の覚悟と願いが胸を打った。
この小説は、筆者の未成年時の犯罪の報道を行った出版社から発行された。彼が背負うその罪名にも背景があり、厳しい現実を必死に生きる弱いものを守ろうと選んだ「正義」が、法律と乖離していたという不条理、非情過ぎる理不尽に、言葉になろうとしてなりきれない感情を今も整理できていない。
歪曲された報道の記憶を全て上書きすることは、現実には困難だ。筆者は事実を超えたものを背負って生きている。しかし筆者は、ここでまた分断を生みたくないとその出版社での出版を選択した。
また少年法の目指すところと、一筋縄ではいかない現状については、未だ答えの出ないところだ。本書の内容と彼自身の存在と選択は、懸命な努力でようやく現在の場所に辿り着いた青年を、事実を歪曲してまで引きずり下ろし、社会的に抹殺しようとした報道の在り方と、少年法を取り巻く論議への問題提起にもなったと思う。
筆者がインタビューに、最後まで堕ちなかったのは親に愛されていた実感があったから、と答えていたのが印象的だった。スナックからの帰り道のシーンは、厳しい日々を寄り添って生きる母子のお互いへの愛情に溢れ、キラキラと輝いている。母の「その子は悪い子じゃないんです。私がその道に行かせてしまったんです」の言葉とそれまで見せなかった涙が、初恋の人・本との出会いと共に、主人公の人生を変える転換点であったことは、想像に難くない。
筆者は本業に勤しみたいとのことなので、2作目は先の話になりそうだが、筆者のむき出しの人生はまだ始まったばかりだ。これからどんな生き様を見せてくれるのか、楽しみにしている。
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