文庫版あとがき

本書p287文庫版あとがきにおいて「今後、漂流記を書く気持はない」と吉村昭は述べている。 おそらく吉村にとって本書は、ある一つの到達点を示すものであるのだろう。そのことは我々読者も本著を手に取り、読んでみれば分かるであろう。 たとえば同じ人物を扱った『おろしや国酔夢譚』のように史料の収集が不十分かつ人物への講究も不十分である作品の場合と、本作とでは、主人公の後半生の知識が前者には欠落している。そのために、物語が全く違うものになっているのである。どちらが歴史の実相に近いかは明瞭であろう。 今後、本作以上の「歴史」小説の登場を期待はしているが、現況本作以上のものはないと思われる。