凡俗の証言本とは一線を画する名著

この本は渡辺恒雄のただの証言本ではない。大学教授かと見紛うほどの著者の豊かな政治史の知識や教養が総動員され、渡辺恒雄をある種の狂言回しとして、戦後政治のうねりを鮮やかに描いている。 私が敬愛する作家の佐藤優も「波」の書評の中でこの本を「戦後の怪物の全体像に迫る最良のノンフィクション」「著者の安井氏の取材力と筆力、能力の高さが反映」と絶賛していたが、読み終えて全くその通りだと思った。 渡辺恒雄の思想と行動、そして戦後政治を、1戦争との距離感で動いてきた戦後政治、2取材者と当事者の線引きが曖昧な戦後の政治記者像、3人間感情で動く政治という3つの視座からのアプローチで見事に描いている。著者の筆力、構成力にも脱帽した。渡辺恒雄の証言を味わいたい者も、戦後政治の激動を追体験したい者も、共に読むべき名著である。