凄まじい気迫を感じる渾身のエンタメ

この著者はやばい。 私は同じ作品を即二度読みしたのは初めてだ。 著者の青木杏樹氏の小説はデビュー作『ヘルハウンド』から読んでいるが、おそらく史上最高のエンターテインメント小説だと絶賛したい。 文学賞を獲った自信もついたのか、文章力が格段に上がり、すべてが洗練されて圧倒的に読みやすくなった。 序章の終わり方から「こんな絶望があるのか」と鳥肌が立つほどの没入感を演出していることも賞賛に値する。たった四行。されどその四行である。主人公の絶望的状況から生まれた、歪んだ希望がたった四行で表現されているのを感じてゾクゾクした。 26ページの佐藤のセリフの切り方も巧い。ドラマならばシーン切り替えか暗転の部分だ。文字を読んでるだけなのに映画やドラマのような映像が頭に浮かぶのである。これを狙ってやっていないのであれば凄まじい才能と言わざるを得ない。 『ヘルハウンド』から一冊の本としての構成力の高さが話題になっていたが、今作の構成には嫉妬を覚えるほどの計算された巧みさ。第四章を読み終えた瞬間に、慌てて冒頭までもどった。伏線が最初からあったのである。気づいた時には震えた。 これは読者が気づくかどうか試されているエンターテインメントだ。 メディアワークス文庫という10代から読めるライト層に配慮した読みやすさに、コアな読者を惹き付ける伏線の数々。気づけば面白さが何十倍にもなる。だから私は読み終えた後に、再び頭から読み直したのだ。 重厚じゃないからこそ、誰でも読める。 ライト文芸とはそういう出発点だった気がする。 誰でも読める故に、結末を最初に持ってきても楽しめるのだ。(編集者をやっていた十年以上前を思い出す) SNSでネタバレ配慮が叫ばれる昨今だが、主人公の結末をSNSで見てしまったとしても、何度でも同じ映画を見るかのように何度でも楽しめる小説だった。似通った作品が増え始めたライト文芸界に光を見た。 とてつもなく大胆かつ鮮烈な挑戦をした著者の青木杏樹氏には敬意を表したい。 主人公とベルのコミカルなやり取りを楽しむ層。 悪魔の正体や能力に妄想を膨らませる層。 誰が犯人なのか推理して、犯人をどう殺すのかを期待するサスペンス層。 私の場合は主人公のその後の未来に思いをはせたが、あらゆる層の読者が読めるエンターテインメント小説をありがとう。 できることならば続編を期待したい。