濃密で美しい恋模様の軌跡

「完全版」のタイトルに相応しい、作品の姿がそこにはあった。 原作の特性もあり、ドラマとしては限りなく攻めた台詞や演出も多い。(ましてや円盤は放送や配信の制約からも解放されている。)故に、例えば原作ジャンルに縁のない者などはその大胆さに面喰うかもしれない。だが、色眼鏡で見るには口惜しい程に、役者の熱演と美しい映像・音楽らの引力は凄まじく、細部まで丁寧に作り込まれた作品である。 “小説家”木島が紡ぐ虚実混交の言葉たち。大学生の春彦はその言葉や仕草に翻弄され、心惹かれてゆく。「もっと貴方を知りたい」という深遠な欲求。芽生えた互いの想いはしだいに膨らみ、交錯し、衝突。春彦の透き通るまでに真っ直ぐな想いは、孤独の寂寥を包んだ木島の「嘘」という殻にひびを入れる。やがて、破けた殻を取り払うように暖かな光に包まれた二人の想いが溶け合う。その過程が、木島の悪友である編集者・城戸の存在も絡み合いつつ繊細に描写されている。 木島の飄々としたようで孤独を内包した複雑な内面、春彦の純粋で一途、愛を知ることで強くなる心。彼らの刹那にして変わる表情、声色に瞳、背中や佇まいから、人間の生々しくも繊細で微かな感情の揺らぎを見て取ることができる。これを、夏の湿気を纏ったように浪漫で甘美な映像が支え、優美なピアノの旋律で構成された劇盤(音楽)が、作品全体を幽玄に彩る。「音」は雄弁で、時には登場人物の感情を増幅させ、時には物語の先導役ともなる。耳に纏わる蝉の声、静かに揺れる枝切風、万年筆の摩擦音、モダンレトロなレコードの音色……。あちらこちらに散りばめられた生活音一つ一つが物語に奥行きを与え、高い踏切警報音と救急車のサイレンはドップラー効果の如く、現実と小説世界と妄想の往来を想起させる。そして、人間の息遣いや衣擦れの音、抑えられぬ嬌声や口付けの音が、本作に不可欠の官能的な世界観を形作る。まさしく、スタッフキャストの奇跡的な化学反応が美しい作品を作り上げたのだろう。 作品に惚れこんだファンの熱い声が後押しした円盤発売。これにより日の目を見た特典映像も必見。美しくも濃密な恋愛ドラマの全貌が凝縮された185分間(特典映像込み)、高画質かつ高音質でのご鑑賞を推奨したい。