漱石が美術を通して見ていたのは、日本が近代化される過程で生きる人びとの精神や時代そのものだったのだ。独特の「奥行論」やAIの時代の「自己の表現」とは何か、などはさらに深く考えたくなる興味深い話と尾を引いている。 小説からは見えにくい人間・漱石の、親身さやそれと表裏一体の厳しさ、また自作の絵に対する酷評への切ないリアクションなどナマの魅力にも感じ入る。漱石や美術ファンには一読をおすすめ。