GIDからトランスジェンダーへ

吉野氏の研究上の功績は「GID規範」(それに通底する男女二元論、異性愛主義etc)の発見、そして医療側と当事者・患者側の権力関係を指摘したことにあると思います。 「LGBT」という言葉が広く知られるようになった今この本を読むと、GID(Gender Identity Disorder)という言葉や「GID規範」が支配的であった状況からは隔世の感を覚えると同時に、その規範に通底する男女二元論や異性愛主義、戸籍制度の前提、医療側の体制の未成熟さが未だ存在する事も痛感させられます。 白眉はやはり、はじめにとおわりに、そして第四章補論。 吉野氏自身の医療裁判とその経過についても詳述されています。 著者が圧倒的に誠実だなと思うのは、自身がトランスジェンダー、クィアとしてのマイノリティであったとしても、他の様々な面では自分はマジョリティかもしれない、だとすればマジョリティとしての自分の特権を自覚する、それを有効に使う、ちゃんと言挙げする、マジョリティとしてそうする責任がある、という事を自身に突き付けているところです。 「LGBT」というと、「自分らしさ、私らしさ」という言葉が多用されますが、本書がそれらと一線を画す点がここにあり、第四章補論、おわりにでもこの事について書かれています。 内容もさることながらこの本はフォント、帯、文字組み、それぞれの紙質と、装丁全体として一通りきちんと手が入っており、丁寧に作られた事がよく伝わってきます。 表紙の砂漠(ちゃんと見たらわかるようになっている)は本文とリンクしており、著者の意を汲み取っていることがよくわかり、視認性をバチバチに高めないところにも渋さも感じます。 装丁が丁寧に作られた本はやはりそれだけ内容も伴っています。 これはヘイト本や量産された自己啓発本の安っぽくて粗雑な装丁を見れば一目瞭然でしょう。 最後に、著者自身の医療裁判について、様々な評価・論争があるようです。しかし「何が正しかったかは歴史が証明する」という事ではないでしょうか。