パパとマチコと桜の思い出

1944年夏。小学生のユリコは新聞社を経営するパパ、ちょっと小煩い叔母キミコと従弟ゲンジと広島で暮らしていた。パパは多忙だが包容力があり、ユリコは「嬢や」と呼びかけられるのが大好きだった。そして何でも話せる親友のマチコと、こっそりジャズのレコードを聴くのも楽しみのひとつ。そんな世界が彼女の全てだった。 多感で観察力の優れたユリコの目は、学校の授業中の事、広島の煌びやかな繁華街の様子、時折見かける悲しげな目の男性、パパ再婚後の家族関係の変化等をつぶさに見つめ、次第に重苦しくなってゆく空気、近所のお兄さんの出征、プロパガンダとの狭間でもがくパパの様子迄、子供故に良く分からないながらも繊細に描いてゆく…あの瞬間の事も。 チャプターごとに当時の日本の大本営発表が引用されており、市井の生活に及ぼした影響をある程度知る後世の者としては心が痛む。著者キャサリンさんの娘さんが学校の課題の為、おばあちゃんの広島の体験を知りたいと言った事が、この本が世に出るきっかけとなった。故に児童書ではあるけれど、戦争が落とす影を飾らない目線で浮き彫りにする物語は大人こそ読む価値があると思った。