人類学者の気概と本書の効用
本書は文化人類学という学問を知らない人にとって、格好の案内書である。
タイトルからは、昨今量産されるコミュニケーション本の一種のような陳腐な印象を感じるかもしれない。しかし恐らく日本語で書かれた最も易しくわかりやすい文化人類学の入門書であり、教科書の性格を取りながらも、「人類学のものの見方を非専門家、とりわけ在野の人々に伝えたい」という、筆者の人類学者としての気概を随所に感じられる。
読み物としても世界の様々の文化は単純に不思議で面白い。また実学としても、本書で学ぶ「相対化」の視点は、読了したその日から生活に応用できるものである。文系学部の有用性が顧みられなくなっている現在において、決して実学であることが学問としての意義のすべてではないが、本書を手に取ることで、文系劣位の言説が荒唐無稽であることが実感できるはずである。
日本の企業で働く会社員や、部活やバイトに忙しい学生、家事や子育てに励む主婦が、全く関係の無いアフリカの文化を知ることに、一体何の意味があるのか。グローバル化した時代だから多様な文化を知ることに意味があるのではない。家族、友人、先輩後輩という近い関係の中にこそ大量の「異文化」が満ちている。本書で学ぶ相対化により、自分と違う異文化を知ることを通じて、自文化との差異に気が付き、自文化を再認識することが可能になる。悩ましい人間関係を打開したい時に、彼女との関係がマンネリ化した時に、自らを見つめ直そうと考えた時に、日々の生活のあらゆる場面でヒントとなる考え方である。
本書で学んだ共感へのアプローチを用いることで、世界の見え方が僅かに変わってくることを実感できるのではないだろうか。そして私たちは読了し、文化人類学の魅力を少し感じられたところで、これまでに経験したことの無いあとがきを読み、筆者の人生や人間性を想像しながら、次回作を待たずにはいられないのである。
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