人は、「それでも」木を植える。

何か事件・事故があったときだけ取材と称して出かけていくジャーナリストには、こういう本は書けないだろう。 著者の高橋美香氏は、パレスチナを継続的に取材しているフォトジャーナリスト。いや、「取材している」と言ってよいのだろうか。彼女にはヨルダン川西岸地区のビリン村に「家族」と呼ぶ一家がいる。彼らはただの「受け入れ先」ではない。そういった、深いつながりを築いた人々のリアルな生活を描写しながら、著者は私たち読者を、ニュースでは決して知ることができない、パレスチナ人のリアルな生活の中に連れていってくれる。これは、何事にも替えがたい読書体験である。そして、読みながらどうしようもない痛みに襲われる。私は、何をしているのだろう。著者自身、「プロローグ」でこう書いている――「どれだけパレスチナの人びとのことを伝えようと、……彼らの力にはなれず、かつてがむしゃらに信じていたように『信念をもって行動すれば必ず世界を変えられる』という確信はもてなくなっている」。 本書は、高橋氏が前著『パレスチナ・そこにある日常』を出したあと、2011年、ちょうど「アラブの春」でアラブ・北アフリカ一帯が沸き立っていたころから、2014年までを綴った、正味220ページほどの本である。著者が撮影した写真も多数収録され、その中で笑ったり、すまし顔をしていたり、真剣な目をして仕事をしていたりする人々は、著者(撮影者)にとってただの「被写体」ではないし、完全無欠な「英雄たち」でもない(荷物が荒らされ、化粧品を勝手に使い散らかされて著者が怒る場面がある)。生、病気、死、労働、誇り、希望、絶望、口さがない噂話、村社会、そしてもちろん、イスラエルによる暴力と世界の無関心・無策・無力……そういったものが交錯する真っ只中(帯文に「絶望とわずかな希望のはざまで」とある)に生きる「家族」である。ひとりひとりに顔があり、名前があり、考えがある。その事実は、重く、また、輝いている。そして、それだからこそ、「それでも」木を植える。 しかしその「木を植える」行為を、「人間の強さですね、感動しました。連帯の意を表します」と消費することを、この本は許さない。では、何を……? 読後感は、途方もなく重い。 少し値が張るが、それだけの価値のある一冊である。