読者の思考が広がる、土の本

あちこちと歩き回ると、日常とは異なる情景に出くわす。しかし、それが何か分からないし、日常の時間を裂いてまで調べる気も起こらず、そのうちに、その情景を忘れてしまう。ところが、思いがけないとき、会話の中、あるいは、活字や映像の中で、その情景がなんであったのかを知る手がかりに巡り会うことがある。 … 私は、灌漑用水のコンクリート壁面、湿地、あるいは渓流に流れ込む山の斜面からの湧き水で時折見かけるスライム状をした赤レンガ色の物質が気になっていた。その後、顕微鏡観察したり、既存の書物による情報により、その物質の正体は、(1)鉄酸化細菌であり、(2)水溶性の二価鉄からエネルギーを取り出して、不溶性の三価鉄に変換していること、(3)土中の無酸素状態の部位から二価鉄が生じることまでを突き止めた。ここで満足して、もう調べる気は起こらなかった。しかし、別の目的でこの本を手にして、読み進めると、「土壌生成の実際-三宅島初成土壌の微生物遷移-」というタイトルに目にとまった。火山噴火によって放出される二酸化硫黄ガスは、土壌を酸性化して水溶性の二価鉄を安定化して存在させるのに貢献し、鉄酸化細菌の増殖が促されることを知った。鉄細菌の異常発生が、活火山と関わっているとは知らなかった。 … 「水田は地球温暖化を防ぐのか?」、「西アフリカ サヘル地域における砂漠化防止の最前線」、「カビの中に細菌がいる、ってほんと?」などなど、他の本では読んだことのない、斬新でマニアックな内容のトピックが満載な本であり、読者ひとりひとりの思考が広がり、実際の行動に結びつく助けとなる本であろう。