新しい世界が広がった
日経新聞の「私の履歴書」は67年間続く超ロング連載コラムである。著者はこのコラムに登場した各界の主要人物876人の中から100人を厳選し、1人見開き2頁にその要約と著者のコメントを加えてまとめている。人物を深く知りたい人にはもちろん物足りなさはあるのだが、初めて知る人物については、そのアウトラインがわかるし、意外なエピソードを丹念に拾ってあるので、じつに面白い。2頁という限られたスペースの中に、登場人物が書いた何を切り取り、どうコメントするかが腕の見せ所だが、著者は社会人2年生の時からなんと58年間このコラムを熟読、自身のビジネスや生き方の指南書として役立ててきたし、「私の履歴書」研究まで始めた人だから、その選択は的確でさすがである。
さて、この100人の中で、私は名前とわずかでも情報を知っている人は何人いるだろうと数えてみた。57人だった。圧倒的に経済人に弱いことを自覚させられた。だが名前が初めての人物でも、要約と著者のコメントを読むと歴史に関わる秘話に驚くことが多く、新しい世界が広がった気がする。各人の見出しのつけ方も巧みだ。たとえば、朝海浩一郎「敗戦日本が分割統治されなかったのは」、椎名悦三郎「未練を残さず、ドブに捨てたつもりで帰ってこい」、田中角栄「新妻との誓い」、土光敏夫「怒号だけではない」、西岡常一「堂塔建立には木を買わず山を買え」など、思わず読みたくなる。最後の西岡の木を買わず山を買えの話は「木は土の性によって質が決まる。山のどこに生えているかで癖が生まれる。一つの山の木で一つの堂、搭を作るべし」とあって、ひたすら感心した。人間が自然とともに生きていくうえで大切なことを教えてもらった気がする。このように100人それぞれの言葉には含蓄があり、ぜひ一読をお勧めしたい。
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