本書は社会学者かつNTの視点から、現在(2017)に至る自閉症の社会運動の歴史と流れを俯瞰した良著であるが、読者である私が知りうる限り、一つだけ、事実と異なる点がある。 PP.53-54「もちろん最近では自閉症当事者の自叙伝や手記なども世界中でかなり出版されるようになった。(中略、具体的当事者名と著書名を列挙)日本でも2000年代後半に入ると、(中略、具体的当事者名を列挙)が現れた。」 本書にはこうあるが、しかし実際には、すでに1990年代半ばには日本でも、その後の自閉症業界と当事者らに大きな影響を与えた、自閉症当事者による日本初の手記が刊行されているが、例えばそうしたことについては、池上女史はなぜかスルーしておられる。 付け加えるなら、2000年前後には、自閉症当事者らの活動に大きな影響を与えた、当事者によるウェブサイトが相次いで開設されるなどの出来事もあるなど、このように大きな動きのあった1990年代から2000年代前半の日本の自閉症当事者運動であるが、勉強不足・調査不足ならまだしも、もしもその時代を敢えて意図的にスルーし、言及を避けたなら、日本の自閉症史を語るうえで、ただひたすらアンフェアというしかなく、事実を読者に誤り伝えるものである。 たとえばそうした過ちについては、池上氏は本書プロローグで、P.8「私はいわゆる自閉症の専門家でもなく、かといって自閉症当事者でもないし、自閉症児の親でもない」と予防線を張っているが、NTが自閉症当事者をどのように観察しているかを知るという点では、自閉症当事者の一人として、なかなか興味深かった本といえるだろう。