前穂高の「氷壁」は宝物のようなもの

昭和33年製作のこの大映映画を、私は昭和52年の冬にテレビ放送で偶然見た。まだ高校生だった。山というものに漠然とした憧れを抱いていたこともあり、厳しい冬山を背景とし、白黒にも見えるその画面に食い入るように見入ったものだ。その後間を置かず、井上靖氏の原作小説「氷壁」を新潮文庫で探し出した。それは単なる登山小説ではなく、ナイロンザイル事件を題材とした社会小説、また恋愛小説のようなものであった。ドラマチックな話の展開にすっかり魅了された。読み終えて本当に山が好きになった・・・。あれから40年以上たった今日、何と平成28年に大映オリジナル版がDVD化されていたことを知った。それまで平成18年頃にカラコルムK2を舞台に変えて再映画化されていたが、前穂高の「氷壁」とは別物と考えて、興味がわかなかった。オリジナル版のテレビでの再放送は完全に諦めていたし、細々と上映会が開かれていたことは知っていたが、60年近く前の映画であり、まさかDVD化とは。おそらく著作権の解除調整が終わった結果であろう。私には望外のことであった。すぐに買おうと思った・・・。さてDVDは届いたものの、未だに見ることが出来ずにいる。高校時代は予備知識や先入観もないままに見たので、あんなに感動したのだろう。今見れば今なりの解釈が加わることにより感動は当然薄れるだろう。それが自分の中でこの作品の価値を損なうことになるような気がしてならない・・・。おりしも令和最初の冬は暖かく、雪は見られない。「氷壁」の舞台にふさわしくない。もし今後凍てつくような寒さが訪れるならば、勇気を出してこの名作映画をもう一度見てみようと思う。