水木氏の本来の偉人のとらえ方?

水木作品においては、偉人(或いは奇人w)を扱った作品が少なくは無いが、入手が容易なものの中ではこの「劇画 ヒットラー」と「近藤勇」に関してのみ、明らかに「南方熊楠の生涯」や「神秘家列伝シリーズ」とは完全に相違した路線になっていると言っていい。 1点は絵のタッチであり、もう1点はストーリー展開にエンターテイメント色が殆ど皆無に近いことである。 小生ははじめに「南方熊楠」や「神秘家列伝シリーズ」から入っていったので、「近藤勇」を読んだときはかなりの驚きを隠せなかったが、この「ヒットラー」についてもそれ以上の驚愕があった。 とにかく、内容についてはもう小説に近いと言っていい。ともすれば、とんとん拍子のヒットラーの出世に焦点を当てることも描写も出来たであろうが、自尊心ばかり強い割に中学を落第し、その後も浮浪者収容施設に入っていたこともある経緯から、淡々と独裁者となっていく過程が描かれている。 と言うわけで、話の抑揚は盛り上がりに欠けるものの、ヒトラーという人物像・当時の歴史をマンガで触れたいと思っておられる方にはかなり最適な書で有ると言っても良い気がする。(ただし、活字はとんでもなく多いw) 初版は1990年だが、ふと思うのは絵のタッチなどからこれが水木しげる氏の偉人のとらえ方なのかもしれないと勝手に邪推せざるを得なかった。 「南方熊楠の生涯」「神秘家列伝シリーズ」等は確かに盛り上がりにとんで、エンターテイメント色は強いが、今ひとつ氏が有していた独特のアクが感じられないことが有りプロダクション色が強い気がするのは気のせいだろうか??? 蛇足であるが、参考文献はかなりのもの。マンガである程度本格的に人物や物語を書いている作品は多々あれど、ここまで本格的な作りなっている作品も希有であった印象であった。