難病患者をめぐる感動のドラマか、と身構えて読んだのですが、湿度の低い淡々とした筆致であったことにかえって好感を覚えました。 「博士」の症状はむしろ世界に秩序を与えるルールのひとつであり、彼自身が一個の数式として生を全うしていることが、この小説の静謐なシステムを形作っているのでしょう。 私たちは誰もがそれぞれに与えられた多様な前提の中で(母子家庭とか)幸福を探すべく人生を送っているのですが、どのような条件の下でも人は最適解を出すことができる、というメッセージを私はこの物語から受け取りました。愛すべき小説です。