約20年ぶりに再読し、なぜタイトルが「こころ」なのか、ようやく分った気がします。先生は親友「K」を御嬢さん(妻)を手に入れんがために狡猾な人間になって友を裏切った事に苦しみ、「K」は‘精進(精神的成長)’により‘道’を求道していた自分が、御嬢さんへの恋により覚束なくなっている事に絶望し、どちらも自死を選択する。そして「先生」と「K」の間にいた御嬢さんは、年頃の娘らしい無邪気さとその裏に潜んでいるしたたかさを、(妻になってからも)自覚する事なく取り残されている。他のエピソードも含め、人の「こころ」の優しさと残酷さが、抑制された表現により、いっそう際立っています。何度も読み返す価値のある作品であり、漱石のその当時にはなかった、現代にも通じる価値観に貫かれた名作です。