正欲

この小説は、筆者は誰しもが共感出来ない題材を扱いながら、誰もが一度は感じたことのある”他人に理解してもらえない”という感情を扱った日常的に起こりえるドキュメンタリーだと私は感じた。その中で筆者は救いの手を夏月に差し伸べ、佳道と出会わせた。一時的にでも、両者のその正欲は満たされた。そこに人生の素晴らしさが詰まっている。つまり苦しいことは一生続くわけでは無いと、諦めるなと、そんなことを伝えたかったのではないか。 多くの人はつい目の前の欲に負けそうになるが、日常の多くは現実である。その欲を正しい方に向けられれば人生が少しでも楽になるのではないか、と筆者はそのことも伝えたかったかもしれない。つまり正しい方向の欲＝正欲である。例えば筆者の欲とは”小説を書くこと”であるとして、それで満たされるのであれば筆者の朝井リョウ氏は少なくとも登場人物たちより幸せであろう。つまり、読者が登場人物のような欲を持っていないなら、それだけで幸せだということもこの作品の中で言っているのではないか。それは登場人物の欲をアレルギーなどに置き換えれば分かりやすいかもしれない。 読み終えて、人間というのは人それぞれ実に多くの悩みがあるのだなと改めて思うのだが、登場人物のそれに比べればもしかしたらたいしたことではない。先程仮定したように、もし筆者のように仕事に打ち込めればそんなに楽しい人生はないのかもしれない。 ”正欲”とはおそらく必要以上に欲を持たないことなのだなとも捉えました。