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なぜ世界中によく似た神話が見られるのか。神話には人類の古い歴史が埋めこまれている。最新の神話研究とDNA研究のコラボにより、「出アフリカ」以降のホモ・サピエンス移動の軌跡が明らかに。世界の神話の分析から浮かび上がる人類の壮大なドラマ。人類史の見方が変わる! 日本神話では男神イザナギが、亡き女神イザナミを求めて冥界に下ります。一方ギリシア神話にも、オルフェウスが死んだ妻エウリュディケーを求めて冥界に下るという非常によく似たエピソードがあります。しかしこのパターンの神話は上記の二つに止まるものではなく、広く世界中に分布しています。では、なぜこのように、よく似た神話が世界中にあるのでしょうか? 2013年にハーヴァード大学のマイケル・ヴィツェルが、この謎を解くべく『世界神話の起源』という本を出版しました。この本によれば、世界の神話は古いタイプの「ゴンドワナ型」と新しいタイプの「ローラシア型」の二つのグループに大きく分かれるとされます。「ゴンドワナ型」はホモ・サピエンスがアフリカで最初に誕生したときに持っていた神話です。それが人類の「出アフリカ」にともなう初期の移動により、南インドからパプアニューギニア、オーストラリアに広がり、アフリカやオーストラリアのアボリジニの神話などになりました。 一方「ローラシア型」は、すでに地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中心として新たに生み出されたと考えられています。それがインド=ヨーロッパ語族やスキタイ系の騎馬民族の移動によってユーラシア大陸全域に、さらにはシベリアから新大陸への移動によって南北アメリカ大陸に、そしてオーストロネシア語族の移動によって太平洋域へと、広く広がっていきました。つまりこの説によれば、日本神話もギリシア神話もローラシア型に属する同じタイプの神話ということになります。両者が似ているのは、むしろ当然のことなのです。 近年、DNA分析や様々な考古学資料の解析によって、人類移動のシナリオが詳しく再現できるようになりました。するとその成果が上記の世界神話説にぴったりと合致することがわかってきました。すなわち神話を分析することで、人類のたどった足跡が再現できるようになったのです。 本書は、近年まれに見る壮大かつエキサイティングな仮説であるこの世界神話学説をベースにして、著者独自の解釈も交えながら、ホモ・サピエンスがたどってきた長い歴史をたどるものです。 はじめに──なぜ世界中に似たような神話があるのか 第一章 遺伝子と神話 第二章 旧石器時代の文化 第三章 人類最古の神話的思考──ゴンドワナ型神話群の特徴 第四章 人類最古の物語──ローラシア型神話群 第五章 世界神話学の中の日本神話 第六章 日本列島最古の神話
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世界神話学入門
黄泉比良坂を訪ねて島根を旅したとき、そういえばギリシア神話のオルフェウスの話と同じプロットだな、と感じ、本書を手に取った。著者は、海洋人類学および物質文化や言語文化の人類学的研究を専門としている後藤明さん。 2013年、ハーヴァード大学のマイケル・ヴィツェルが『世界神話の起源』の中で、世界中の神話はゴンドワナ型とローラシア型の2つに大別できるとした。本書は、その仮説を下敷きに、考察を進めてゆく。 第1章では人類の発祥まで時間軸を遡る。続く第2章では、旧石器時代の文化について考察する。文字の存在は確認されていないが、壁画などが残っており、後藤さんらの仮説が正しければ、世界神話に関する認識をあらためなくてはならない。 第3章では、世界中に見られるゴンドワナ型神話を紹介していく。そのなかで、人類が後期旧石器時代には天文に関心を抱いているとした上で、後藤さんは、「たとえばシベリアあるいはモンゴル付近から北米大陸にかけて、もっとも広範囲に見られるのが宇宙狩猟(コスミック・ハント)のモチーフである。この地域は緯度が高いため、北極星の周りを回って沈まない周極星が多い。日本の北海道の北部でも北斗七星は1年中沈まない。それでこれら沈まない星に対して、漁師や猟犬が獲物を永遠に追いかけている、という神話が付与された」(132ページ)と述べている。だとすると、星座に関わるギリシア神話は、ゴンドワナ型神話にルーツをもっていることになる。 第4章では、ローラシア型神話を紹介する。「ローラシア型神話にとっての究極的な問いは、世界と人間の起源はどのようなものだったのか」(146ページ)だという。世界の創造から、世界各地の神話には共通項が多い。「そしてローラシア型神話は、最終的な世界の破滅を語る黙示録をしばしば伝える」(180ページ)。 洪水神話も、世界各地に見られる。あのヴェリコフスキーの彗星(イマヌエル・ヴェリコフスキー『衝突する宇宙』)を持ち出すまでもなく、アフリカからユーラシア大陸を伝って南北アメリカ大陸に移動した人類によって、神話は伝搬したのかもしれない。だとしたら、洪水は1万2千年前の出来事ではなく、さらに上代に起きた海進を、人類の記憶として伝えているのかもしれない。 また、こうした神話の共通性を利用して、ナチスや戦前の大日本帝国は、自らの正当性を主張した。後藤さんは、「われわれは、