「悲しいやねえ、人ってェのはさあ」
前に持っていた本に水をこぼしてしまい、ヨレヨレにしてしまいました。
私は、京極夏彦さんの作品群ではこの「巷説百物語シリーズ」が一番
好きなので、保存用に迷わずリピート購入しました。
泉鏡花賞受賞作『嗤う伊右衛門』にも登場する小股潜りの又市が、
江戸の世を舞台に悪党を退治する時代小説の第1弾です。
短編が七本収録されていてサクサク読めます。
最も印象に残ったのは、最後の「帷子辻」ですね。
生と死というものへの著者の想いが込められていて、その想いを又市に
こう語らせます。
「この世は悲しいぜ、玉泉坊。その婆ァだけじゃねえぜ。おまえも奴も、
人間は皆一緒だ。自分を騙し、世間を騙してようやっと生きてるのよ。
それでなくっちゃ生きられねェのよ。汚くて臭ェ己の本性を知り乍ら、
騙して賺して生きているのよ。だからよ―」
俺達の人生は夢みてェなものじゃあねえか。
又市はそう言った。
「無理に揺さぶって、水かけて頬叩いて、目ェ醒まさせたっていいこたァねえ。
この世はみんな嘘っ八だ。その嘘を真実と思い込むからどこかで壊れるのよ。
かといって、目ェ醒まして本物の真実見ちまえば、辛くッて生きちゃ行けねェ。
人は弱いぜ。だからよ、嘘を嘘と承知で生きる、それしか道はねえんだよ。
煙に巻いて霞に眩まして、幻見せてよ、それで物事ァ丸く収まるンだ。
そうじゃあねェか―」
とても心に響いた台詞でした。
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