西洋史の一大事を読み直す。

ともすれば、テストのために暗記する太字表記と短い説明文の参照だけで通過してしまう西洋史の一大事。英仏百年戦争である。 これだけ長期にわたった戦争は、両国がめぐる利権がその過程で様々に変わり、実にややこしい。騎士道の華・エドワード黒太子や、救国の聖女ジャンヌ・ダルクの活躍も、百年にまたがる戦争の中のわずかのエピソードを飾るキャラクターのほんの一部にすぎない。 もとより、英仏百年戦争など存在し得たのだろうか?この問いかけから著者お得意の節回しで、壮大に過ぎてその実あまり知られていない、この歴史的な大戦の趨勢が語られる。無論、混沌たる中世ヨーロッパにおいて、グレート・ブリテンもフランスも、国家という基盤を持っていなかったし、それに拠るメンタリティも持ち合わせていなかった。国家なき戦争は、確かに「英仏戦争」とは呼びがたい(それこそ厳密には、仏仏戦争ありき、である)。 結局、英仏戦争という呼び名も、どちらに軍配が上がったかも、そして誰が英雄なのかも、決めたのは後世の人間であり、後世のナショナリズムなのである。 大英帝国とフランス。ヨーロッパの二大大国を生み出したきっかけこそが、英仏百年戦争であった。戦争が収束していく中で、両国は中央集権国家への途を加速して辿っていく。百年戦争とは、英仏で戦われたのではなく、戦った二つの勢力が英仏へと各々自立していく戦争だったのである。 著者の文体は癖が強く、サラっと読みたい向きには少しく馴染みにくいかもしれないが、シェイクスピア症候群を引いて一気に読ませるスピード感は秀逸である。