冒頭の「枇杷」から一気に筆者の持つ独特の視点へ誘われる。けして山海の珍味が出るわけでも、グルマンな批評が載るわけでもない。美味ですらなかったりもする。でも如実に記憶の中で思い出す味、食感、香り。幾度ものデジャヴに襲われるような、短篇たち。 食べることは生きることで、生きることは死ぬことで。日常のとりとめない記憶の端々から、生々しい食という行為から、乾いた寂しさや、生きることの業が見え隠れする。挿絵も雰囲気が良く、何度も読み返したくなる。