著者の初期の短編集であるが、この作品集に描かれる「死」というものの見方、或いは肉体への機械的な見方、観察というものは、後の記録文学によく生かされていると思う。 「少女架刑」を読んで気持ち悪い小説だなと思ったが、この作者だからこそ、関東大震災だの三陸大津波、さらには高熱隧道、零式戦闘機、戦艦武蔵といった小説が書けたのだ。人間の肉体に対する冷酷なまでに醒めた見方の原点はここにあるのではなかろうか。 「星への旅」のラストにロープで引っ張られ墜落するときに、主人公は冷静に観察している。読みながら思い出したのだが、9・11のワールドトレードセンターの目撃者が、ビルの外で、ビシャビシャ、という音が聞こえ、上方を見上げると、人が喚きながら落ちてきた、とインタビューに答えるのを聞いたことがある。墜落して地面に接触するまで生きていたのだろう、とも言っていた。主人公は墜落して岩に激突する瞬間に「岩はいやなんだ、岩はいやなんだ、痛いからいやなんだ」と思い、海水にぬれた岩の感触を感じる。無機質な主人公らと同じく作者も肉体をもつ人間というものの虚しさを感じていたのではなかろうか。 いったん、肉体的人間の虚しさを追求した作者だからこそ、肉体的人間の仕出かす戦争兵器や土木の大事業といったものを醒めた目で捉える事が出来たのだろう。