九龍城の奥深さに引き込まれそうです
私が趣味で書いている小説に登場するスラム街が、取り壊されてもう10年以上経つというのに未だ「魔窟」と畏れられ、スラム街の代名詞、混沌と悪徳の象徴とされる九龍城をモデルにしてまして、それまではネットで調べるだけでしたが、参考資料として、数ある九龍城関連の本の中でも特に評価の高いこの本を買いました。
この本は基本的に写真集のようですが、写真とその説明文が掲載されているだけの一般的な写真集のイメージ(と私は思ってます)とは違い、実際に九龍城で生活していた人たちのインタビューをメインに掲載してありまして、豊富な写真との相乗効果もあって、在りし日の九龍城の様子が読んでいてありありとイメージできます。
密集して建てられたビル群などのせいで太陽の光が届かずお世辞にも清潔とは言い難い路地、壁や天井にむき出しで張り巡らされた配管やコード類、外から離れて写した写真だとまるでそこだけ空気が淀んで見えたりと、魔窟、混沌のイメージはおおむね間違っておらず、私の小説に出てくるスラムが果たしてこの何分の一でも表現できただろうかと恥じ入るばかりです。
しかし、この本ではそういう負の側面ばかりでなく、最盛期には3万人以上もの人々が住んでいた生活の場所という面がむしろメインで紹介されてまして、当時の住人のインタビューはもちろん、写真も人々が九龍城内の住居や路地、商店や工場などで暮らし、働いている場面がたくさん掲載されているおかげで、面積や人口といった数字だけでは表すことができない生活感が掴めます。
それから、住人のインタビューでおおむね共通していたのは、経済的事情や愛着など理由は様々ですが、取り壊しが間近に迫る中、いずれも九龍城を離れたくないと訴えていることでした。九龍城がただの混沌や悪徳の吹きだまりだとしたら、そんな気持ちにはならないでしょうから、一口では語り尽くせない九龍城の奥深さというものを感じずにはいられません。たとえこの本が九龍城というものの全てを表現しているわけではないと分かっていても──
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