稀に見る傑作大河ドラマ

何世紀にもわたりその時々の超一流の数学者を悩ませ、時に人生をも翻弄したフェルマーの最終定理(完全証明に至るまでは“最終予想”)。この一見中学生でも分かる命題の簡潔さと、底知れぬ奥の深さを兼ね備えた題材の妙、そして時代時代の数学者達が織りなす人間ドラマが、ページを繰る手を止めさせない。 命題は簡潔でも証明の過程は超専門的らしく、文化系の自分はモジュラー形式などと言われてもなんのことやらサッパリだが、もとよりそのような一般読者を想定して書かれているので、命題の意味さえ理解できれば十分面白く読めるでしょうし、むしろ数学が非常に魅力的に思えてきます。例えば、アカデミー作品賞受賞作映画『ビューティフル・マインド』が、鑑賞者に数学の知識を持つことを強いていないのに似ていると思いますが、そこに数学の魅力を一般読者に伝える努力を加えたのが本書だ、と言えるかも知れません。 それから、翻訳の自然さも特筆もので、洋書独特の読みにくさが微塵もありません。 女性数学者や邦人数学者の果たした役割・業績に光が当たっているところに好感が持て、クライマックスの緊張感もスゴイ。まさに大河ドラマというべきドキュメンタリー作品です。