ライトノベル
中世商業をモチーフにした人気ライトノベルの九巻目。
先にちょっとキツ目に言ってしまうと、当作はライトノベルのためか基本の設定に要素が入りすぎていて、ファンタジーなのか中世商業描写なのか全部口実に過ぎずラブコメなのか、という点が判然としないところがあります。
もともと命(破滅)は必ずヒロインが助けてくれるという奇妙な前提を繰り返し主張する中で『商人生命』を賭けて戦うという話であったこともあり、本筋の話としては実際に商人生命が破綻する二巻と、商人生命とヒロインを天秤に掛ける三巻で基本的なドラマを使い果たしていた感がありました。後は妖狼譚を中心としたファンタジー路線なのかなと。
しかし話は商談から離れることなく進み停滞感が否めないと感じていました。
しかしこの巻終盤でようやく主人公が『なりたいもの』に対して明確な答えを提示したことによって、シリーズ全体が改めて串を刺したようにシャキっとしました。目指すものがわかれば、過去作の行動も全てそこに至るためにあったと考えられるわけで、四巻以降の展開にも俄然意味が出て、通巻して描こうとしてきたテーマも浮き上がって見えます。
その意味で、主人公のパートナーになり得る女性のライバル、エーブの登場は素晴らしかったと思います。彼女という強烈なリトマス試験紙によって、ドラマに都合の良いお人好しにも見えた主人公が、試され、叩かれ、ようやく主体性をもっていく過程は痛快の一言。
抽象的で大きな意味での商人精神しか語ってこなかった序盤巻の理想論から、「これが俺という商人だ」という具体的で能動的な結論が出たことは、作品を中世風景の寓話から独立した人間の成長物語に変える効果を与えてくれました。そして過程で様々なヒロインが出てきた歴史も主人公が文字通り『女に育てられた』という形がよく見えて、翻ってヒロイン・ホロのしてきたことも見える一石二鳥の展開だったのではないでしょうか。
そんなわけで、この面白さを理解するためには、残念ながらこの巻だけでは足りません。できれば一巻から、せめてエーブが登場する巻までは遡りたいところです。
単独の一冊としてはお勧めできないのですが、シリーズ全体として見るとなかなかのお勧めに成長した作品だと感じています。時間のある方はぜひ通巻してお読みください。
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