おもしろいです!

著者は朝日新聞政治部記者として田中角栄の人となりを身近で感じているので、本書での田中角栄像には奥行きがある。また、一方では新聞記者としての冷静なまなざしも持っているので、客観的な評価もできている。それがサブタイトルとなっている「戦後日本の悲しき自画像」である。田中角栄は高等小学校卒であるが、家が貧しかったために高等教育は受けていないのであり、頭はよかった。学歴ではなく、自らの実力で総理大臣にまで昇りつめた。まさに戦後民主主義の体現者である。 しかし、何が「悲しき自画像」なのか。それは保守本流の流れを受け継ぎ、まさに満を持して総理大臣に就任したにもかかわらず、金権政治批判で田中政権はわずか2年版で崩壊。更にはロッキード事件では有罪判決も受けた。政治に金がかかる仕組みを作り上げてしまったのも田中角栄である。小泉純一郎首相が最終的に変えるまで続いた、いわゆる「55年体制」「国対政治」「料亭政治」「密室談合」を完成させたのも田中派である。 田中角栄の目指した政治は国土の均衡ある開発による発展だった。高度成長期にはそれは間違いではなかったと思う。しかし、田中角栄が台頭した時期はオイルショックで高度成長が終わり、公害や都市問題が深刻化した時期であり、それまでの社会のあり方を見直しが必要な時期であった。社会の方向性と政治が合わなくなると、ただの利益誘導政治となる。日本はこの時期に政治課題や財政のあり方を見直すべきであったのだと思う。首相を辞任した後も闇将軍として田中角栄は政界に君臨する。しかし、そこに理念はなく、権力にしがみつく姿しかない。 田中角栄は政治は生活そのものであるとして、政治を庶民に身近に感じるものにした。民主主義にとっては非常に重要なことである。しかし、政治には理念も必要である。国際的な視野も欠かすことができない。本書を読んで感じたことは、政治家に最も必要なものはバランス感覚であるということだ。