著者は高野山に生まれ育ち、現在は高野山真言宗管長を務める。高野山を語るのに、これほど適した人はいないだろう。高野山は明治に到るまで女人禁制だったので、そこで家族が暮すことはなかった。高野山で生まれ育った人間はまだ何世代もいないのである。本書は高野山を山岳仏教の拠点としてだけではなく、その歴史、四季折々の行事と風情、文化財など多面的に語っている。まさにそこで物心がつく前から生活してきた実感のようなものがあるのだろう。 高野山を語るのに空海を抜きに語ることはできない。しかし、本書では空海や仏教の教えについてはあまり紙幅を費やしていない。高野山は比叡山と比較して述べられることが多いが、比叡山が聖域と俗界を厳しく結界しているのに対し、高野山は聖と俗が混在しているという。高野山は宗派を問わず、武将や文化人、公家だけでなく、多くの庶民からも霊場信仰を集め菩提所を設けられてきた。時代の変化に伴い、高野山も交通が整備され、世界遺産にも登録され、外国からの訪問者も多いと言う。 高野山は長い時間をかけて多く人の平安への祈りが凝縮されており、大自然が人の世の争いや営みを包み込んで癒しの場を形成しているのであろう。開創1200年の大法会にはぜひ訪れてみるつもりだ。
私はこの夏イタリア旅行を計画しています。どこを観光しようかと考えた時に、本書を手にして参考にすることにしました。広大な版図を有し、一千年もの間繁栄したローマ帝国の歴史はやはり魅力的です。「帝国」と言っても、ローマ帝国は力で植民地を支配するのではなく、属州の自治権を認めつつローマと同化する懐の深さを持っていました。そのおおらかさ、開放感がローマの気候、強い陽射しと乾いた空気、から来ていることが写真を通してビジュアル的にも読み取れました。イタリアに行ったら、ぜひカピトリーノの丘には行ってみたいと思います。 属州をも同化してしまうローマ人のもう1つの特質は「寛容さ」だとして、著者の塩野七生になぜローマ人は寛容だったのかというインタビューが掲載されています。塩野氏によると、ローマ人の寛容さは自分たちの持っているものを徹底的に活用する能力に由来しているとのことであり、それが自分の民族だけに適用される考え方ではなく、他の民族にも同様に適用された結果ではないかと思います。 ローマ人の物語も後半になると徐々に明るさが失われ、陰影を帯びてきます。恒常的な蛮族の侵入とキリスト教の台頭です。写真でも教会やモザイク画などが多くなってきます。一神教であるキリスト教は当然不寛容です。一方、神を信じる気持ちのピュアな色調も目に付きます。ビジュアル的にもローマ世界の変容がよく分かる本書は、タイトル通りにローマ人の物語の優れたガイドブックになっています。
本書はセブン-イレブンを創業し、今もセブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOの立場にある鈴木敏文氏がセブン-イレブンの強さの秘密を解説したものである。高度成長期以降の日本では基本的に買い手市場であり、差別化要素がないと価格競争に陥り、消耗戦となってしまう。セブン-イレブンは常に「手軽さ」と「上質さ」の2軸で空白地帯を見つけ、ヒット商品を生み出し続けているという。どこも同じに見えるコンビニ・チェーンで店舗当たりの平均日販で他チェーンに12~20万円もの差を付けてトップであり続けるのは、常に自己差別化をし続けているからだという。松下銀行と呼ばれたパナソニック、液晶で絶対的な強さを見せたシャープ、携帯ゲーム機で盤石に見えた任天堂。圧倒的な強さを持っていた企業も、決して慢心していた訳ではないと思うが、成功の復讐によりもがき苦しんでいる。絶えず変化する顧客ニーズに応え続けることはさほどに難しいことなのだ。 ではセブン-イレブンではどうやって顧客ニーズに応え続けているのか?それは「お客様の立場に立って」考えることだという。「お客様のために」という考え方は、似ているがあくまで企業の立場のままであり、真の顧客ニーズに応えることはできない。例として、セブンーイレブンで販売されている赤飯は「炊く」のではなく、「蒸す」ための設備を多額の投資をして弁当工場に導入した。企業の立場では赤飯という単品のために多額の投資をすることはなかなかできることではない。しかし、セブンーイレブンでは本格的な赤飯を食べたいという「お客様の立場に立って」決断されている。こういったことを積み重ねることによって、同業他社が簡単に真似のできない強さが生み出されている。小売業以外の業種にも、非常に示唆に富んだ本であると思う。
本書の趣旨は「フランケンシュタイン」という具体的な題材を通して、小説技法と批評理論を解説することにありますが、「フランケンシュタン」という小説がこんなに大きなインパクトを持つ作品であることを知り、驚きました。作者のメアリー・シェリーは19才の時に処女作として「フランケンシュタイン」を書きますが、17才の時に妊娠して早産で生まれた子を亡くしています。両親、夫とも高名な文学者ですが、「フランケンシュタイン」という作品を通じて窺い知れる作者シェリーの内面の豊かさには驚愕するばかりです(「フランケンシュタイン」は読んでいませんが)。 さて、本論のパート1の小説技法篇は小説がいかに書かれているかを整理するための手法です。冒頭から始まり、ストーリーとプロット、語り手、結末など小説を分析する手段が解説されます。作品を客観的に見る方法が分かった気がします。しかし、分析するだけでは理解は深まらない。 理解を深めるためには、どのような観点で作品を理解すればよいかのフレームが必要です。それがパート2の批評理論篇です。批評理論には伝統的批評、ジャンル批評など旧来からある方法、精神分析批評、脱構築批評、新歴史批評など哲学や思想から方法論を着想した批評理論があります。パート2は理論の解説という観点では少々物足りなさを感じますが、新書という制約から止むを得ないでしょう。一方、様々な批評理論を通じて「フランケンシュタイン」を解説していますので、作品自体への理解はぐんと深まります。文学を研究するとはこういうことかという片鱗を見せてもらった気がします。
初めに困った部長のタイプ18類型が延々と述べられる。少々うんざりするが、ここは我慢だ。反面教師的に困った部長の様々な言動を説明することで、帰納的に部長に求められる能力が徐々に見えてくる。続いて、部長の役割と必要な能力が述べられる。ここがヤマだ。ポイントは3点ある。 1.現在の部長に求められる資質は部門を変革し新たな価値を創造すること。自分のセクションの業務とミッションの達成を管理統制する課長の役割とは根本的に異なる。範囲を限定した役員と同じ動きが求められる。 2.マネジメント能力はその人の言動から測られる。仕事や組織文化が異なると、必要な能力も異なる。 3.マネジメント能力を構成する言動は性格や資質に影響を受ける部分もあるが、本来性格や資質とは異なるものであり、開発することができる。 2.3.についても具体的な事例を通じて、ポイントの内容が肉付けされる。著者のアセスメントやコンサルティングを通じての豊富な体験に裏打ちされているので、説明に非常に説得力があります。私も管理職の立場にある人間ですので、自らの言動に意識的であり、また自部門の新たな価値の創造に努めることで微力でも日本社会の活力に貢献したいと思います。
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高野山
著者は高野山に生まれ育ち、現在は高野山真言宗管長を務める。高野山を語るのに、これほど適した人はいないだろう。高野山は明治に到るまで女人禁制だったので、そこで家族が暮すことはなかった。高野山で生まれ育った人間はまだ何世代もいないのである。本書は高野山を山岳仏教の拠点としてだけではなく、その歴史、四季折々の行事と風情、文化財など多面的に語っている。まさにそこで物心がつく前から生活してきた実感のようなものがあるのだろう。 高野山を語るのに空海を抜きに語ることはできない。しかし、本書では空海や仏教の教えについてはあまり紙幅を費やしていない。高野山は比叡山と比較して述べられることが多いが、比叡山が聖域と俗界を厳しく結界しているのに対し、高野山は聖と俗が混在しているという。高野山は宗派を問わず、武将や文化人、公家だけでなく、多くの庶民からも霊場信仰を集め菩提所を設けられてきた。時代の変化に伴い、高野山も交通が整備され、世界遺産にも登録され、外国からの訪問者も多いと言う。 高野山は長い時間をかけて多く人の平安への祈りが凝縮されており、大自然が人の世の争いや営みを包み込んで癒しの場を形成しているのであろう。開創1200年の大法会にはぜひ訪れてみるつもりだ。
塩野七生『ローマ人の物語』スペシャル・ガイドブック
私はこの夏イタリア旅行を計画しています。どこを観光しようかと考えた時に、本書を手にして参考にすることにしました。広大な版図を有し、一千年もの間繁栄したローマ帝国の歴史はやはり魅力的です。「帝国」と言っても、ローマ帝国は力で植民地を支配するのではなく、属州の自治権を認めつつローマと同化する懐の深さを持っていました。そのおおらかさ、開放感がローマの気候、強い陽射しと乾いた空気、から来ていることが写真を通してビジュアル的にも読み取れました。イタリアに行ったら、ぜひカピトリーノの丘には行ってみたいと思います。 属州をも同化してしまうローマ人のもう1つの特質は「寛容さ」だとして、著者の塩野七生になぜローマ人は寛容だったのかというインタビューが掲載されています。塩野氏によると、ローマ人の寛容さは自分たちの持っているものを徹底的に活用する能力に由来しているとのことであり、それが自分の民族だけに適用される考え方ではなく、他の民族にも同様に適用された結果ではないかと思います。 ローマ人の物語も後半になると徐々に明るさが失われ、陰影を帯びてきます。恒常的な蛮族の侵入とキリスト教の台頭です。写真でも教会やモザイク画などが多くなってきます。一神教であるキリスト教は当然不寛容です。一方、神を信じる気持ちのピュアな色調も目に付きます。ビジュアル的にもローマ世界の変容がよく分かる本書は、タイトル通りにローマ人の物語の優れたガイドブックになっています。
売る力 心をつかむ仕事術
本書はセブン-イレブンを創業し、今もセブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOの立場にある鈴木敏文氏がセブン-イレブンの強さの秘密を解説したものである。高度成長期以降の日本では基本的に買い手市場であり、差別化要素がないと価格競争に陥り、消耗戦となってしまう。セブン-イレブンは常に「手軽さ」と「上質さ」の2軸で空白地帯を見つけ、ヒット商品を生み出し続けているという。どこも同じに見えるコンビニ・チェーンで店舗当たりの平均日販で他チェーンに12~20万円もの差を付けてトップであり続けるのは、常に自己差別化をし続けているからだという。松下銀行と呼ばれたパナソニック、液晶で絶対的な強さを見せたシャープ、携帯ゲーム機で盤石に見えた任天堂。圧倒的な強さを持っていた企業も、決して慢心していた訳ではないと思うが、成功の復讐によりもがき苦しんでいる。絶えず変化する顧客ニーズに応え続けることはさほどに難しいことなのだ。 ではセブン-イレブンではどうやって顧客ニーズに応え続けているのか?それは「お客様の立場に立って」考えることだという。「お客様のために」という考え方は、似ているがあくまで企業の立場のままであり、真の顧客ニーズに応えることはできない。例として、セブンーイレブンで販売されている赤飯は「炊く」のではなく、「蒸す」ための設備を多額の投資をして弁当工場に導入した。企業の立場では赤飯という単品のために多額の投資をすることはなかなかできることではない。しかし、セブンーイレブンでは本格的な赤飯を食べたいという「お客様の立場に立って」決断されている。こういったことを積み重ねることによって、同業他社が簡単に真似のできない強さが生み出されている。小売業以外の業種にも、非常に示唆に富んだ本であると思う。
批評理論入門
本書の趣旨は「フランケンシュタイン」という具体的な題材を通して、小説技法と批評理論を解説することにありますが、「フランケンシュタン」という小説がこんなに大きなインパクトを持つ作品であることを知り、驚きました。作者のメアリー・シェリーは19才の時に処女作として「フランケンシュタイン」を書きますが、17才の時に妊娠して早産で生まれた子を亡くしています。両親、夫とも高名な文学者ですが、「フランケンシュタイン」という作品を通じて窺い知れる作者シェリーの内面の豊かさには驚愕するばかりです(「フランケンシュタイン」は読んでいませんが)。 さて、本論のパート1の小説技法篇は小説がいかに書かれているかを整理するための手法です。冒頭から始まり、ストーリーとプロット、語り手、結末など小説を分析する手段が解説されます。作品を客観的に見る方法が分かった気がします。しかし、分析するだけでは理解は深まらない。 理解を深めるためには、どのような観点で作品を理解すればよいかのフレームが必要です。それがパート2の批評理論篇です。批評理論には伝統的批評、ジャンル批評など旧来からある方法、精神分析批評、脱構築批評、新歴史批評など哲学や思想から方法論を着想した批評理論があります。パート2は理論の解説という観点では少々物足りなさを感じますが、新書という制約から止むを得ないでしょう。一方、様々な批評理論を通じて「フランケンシュタイン」を解説していますので、作品自体への理解はぐんと深まります。文学を研究するとはこういうことかという片鱗を見せてもらった気がします。
部長の資格 アセスメントから見たマネジメント能力の正体
初めに困った部長のタイプ18類型が延々と述べられる。少々うんざりするが、ここは我慢だ。反面教師的に困った部長の様々な言動を説明することで、帰納的に部長に求められる能力が徐々に見えてくる。続いて、部長の役割と必要な能力が述べられる。ここがヤマだ。ポイントは3点ある。 1.現在の部長に求められる資質は部門を変革し新たな価値を創造すること。自分のセクションの業務とミッションの達成を管理統制する課長の役割とは根本的に異なる。範囲を限定した役員と同じ動きが求められる。 2.マネジメント能力はその人の言動から測られる。仕事や組織文化が異なると、必要な能力も異なる。 3.マネジメント能力を構成する言動は性格や資質に影響を受ける部分もあるが、本来性格や資質とは異なるものであり、開発することができる。 2.3.についても具体的な事例を通じて、ポイントの内容が肉付けされる。著者のアセスメントやコンサルティングを通じての豊富な体験に裏打ちされているので、説明に非常に説得力があります。私も管理職の立場にある人間ですので、自らの言動に意識的であり、また自部門の新たな価値の創造に努めることで微力でも日本社会の活力に貢献したいと思います。