物語の始まりは、ヒロイン・琴坂那沙の「星になりたい」という一言から。主人公・鷲上秀星も当初、どこか儚さを感じさせるこの言葉の真意を掴むことはできません。新天体の第一発見者は命名権を得られると知った那沙が、天体に自分の名をつける事で「星になる」のだと語ったのをきっかけに、秀星は失いかけていた新天体発見への想いを新たにしていきます。星空に挑む中、秀星は那沙の置かれた境遇を知る事になり―― 本書の特長を二つ上げるとしたら、作品全体を通した文章の軽妙さと「時間」の描写ではないかと感じます。 天体観測や天体写真などに関わる大変マニアックな単語が並んでいながらも、それが説明過多にならないように配置されている印象を受けました。これらの丁寧な解説が秀星と那沙が挑む新天体発見の困難さを感じさせてくれます。 また秀星と那沙のやりとりは軽快でありながら、歳の差もあり、互いに踏み込み過ぎないようにしている二人の間には僅かな緊張感を覚え、そこがまたもどかしくて切なくて……。 後半に差しかかり、那沙が「星になりたい」その理由を打ち明けてからは、物語が一気に加速していくようでした。その加速していく感覚とは裏腹に、物語中の時間経過はごくごく短く、長くとも数日でしかないのです。 辛く切ない出来事と喜ばしい出来事が同時に進行していく展開は見事で、作中、日付と時間を明確にしていたが故に、一分一秒でも惜しい秀星達の想いに胸が締め付けられました。 お勧めです。