然程に長大でもない様々な篇が集まった一冊で、少しずつ読み進めるには好適かもしれない。 「三島由紀夫」という人物は、敢えて“現在”の流儀で表現すれば「メディア露出が多く、人気が高い文化人」というような存在であったのかもしれない。数々の小説―非常によく知られていて、学校の授業の“文学史”に題名が出ているような作品から、「それ?あの作家の作品?」という存在の作品、「そういう作品が?在った??」という作品まで―を発表している他、雑誌、新聞等へ様々な文章を寄稿しており、そういう文章も伝わっている。発表後に少し時日を経て本として世に送り出された例も在るようだ。そして“全集”にそういう文章の多くが収録されているようだが、本書はそんな“全集”から択んだ文章を一冊に纏めてみたということであるようだ。 本書は“全集”から「紀行文」と呼び得る文章を択んで纏めてみたという。三島由紀夫が「紀行」というようなことに強い思い入れが在ったか否かはよく判らないが、国外旅行をした経過、国内旅行をした経過、比較的近い辺りで街に出た経過を色々な形で綴って、種々の媒体で発表している。三島由紀夫の活躍は、概ね昭和20年代半ばから昭和40年代前半ということになるが、その期間の様々な文章が本書には収められている。 偶々、三島由紀夫が話しをしている様子が映っている映像を少しゆっくり拝見したことが在る。そういうモノを視て、御本人の話し口調、声の感じを何となく憶えている訳だが、本書は読んでいてそういう「口調と声音」が頭の中を過るような気がした。本当に「活き活きと語る」という具合に綴られた文章が集められた感の一冊がこの『三島由紀夫紀行文集』である。 本書で綴られる「旅」は概ね昭和20年代半ばから昭和40年代前半の三島由紀夫が活躍した時代のモノである。そうなると、「現在の目線」で紐解く場合には少なからず「時間旅行」というような感も交る。「ここ…この年代にはこんな様子だった!?」と些か驚いた内容も散見した。が、それは綴った御本人の意図と全く離れた事項であろう。それはそれとして、各篇では現場で感じ、考えた様々な事柄、御本人が強く関心を寄せていて戯曲も多く綴った舞台鑑賞に関する事柄、モノに触れて考えた事として示される独特な問題意識の提起というような豊富な内容が盛り込まれ、実に興味深い。