「曽呂利新左衛門」という人物が在る。 「在る」とはしたが、生没年や本名がよく判らず、或いは一定程度知られた創作の作中人物ということになってしまうのかもしれない。本業は刀の鞘を造る鞘師で、堺で活動していた。手掛けた鞘には刀が「そろり…」と音も無く収まるというので「曽呂利」が通り名となって、そのように名乗ったという。この曽呂利新左衛門は歌詠みであり、茶道等にも通じているという人物で、豊臣秀吉が擁した文化人の集団であった“御伽衆”に名を連ねていたとされる人物だ。 本作はこの曽呂利新左衛門を主人公とした物語であるが、やや「凝った造り」になっていると思う。“序”と“終”という篇の間に“第一話”から“第九話”が据えられている。短篇風なモノが折り重ねられて構成されているのだが、“第一話”から“第八話”は「〇〇〇の場合」と“〇〇〇”に曽呂利新左衛門以外の人名が入っている。各篇の中心視点人物は“〇〇〇”となっていて、各々の目線での展開の中に曽呂利新左衛門が蠢くのだ。 本作で扱われるのは、豊臣秀吉が四国へ出兵しようとしていたような時期から関ヶ原合戦の頃まで、そして最終盤に「その後」ということになる時期の事が入る。この間、“時代”は大きく動いた。その中で曽呂利新左衛門自身は、武力や財力やその他の世の中に影響力らしいモノを行使することが叶う実力を有していたとも言い難い人物であった。にも拘わらず、「大きな動きの陰で??」というような、独特な動きを見せている。豊臣秀吉政権の中枢近くで、どういう訳か蠢いた“怪人”…そんな曽呂利新左衛門が多様な角度で活写されるのが本作だ。 何処となく、本作の曽呂利新左衛門は「人の本音に刺さり込む“魔性”」というようなモノを体現している“怪人”というような存在感を発揮している。そして終盤で、この曽呂利新左衛門の不思議な活動の動機が明かされて行く。 或いは「時代モノの小説」とでも言った時には「少し異色?」な感もするかもしれない本作なのだが、なかなかに深い余韻が残る。然程の分量でもない篇が積み重ねられた構成なので、読み易い一冊になっていると思う。実は有名なアメリカンコミックに登場する「道化師のメイクの怪人」のような画が表紙と興味を覚えて手にしたのだが、なかなかに面白かった!!