専門家による深い洞察

ゴッホは牧師や伝道師になろうとして、挫折している。そして27歳で画家になる決意をした。画業に宗教的な要素が関係していることは想像できていたが、それがどのような形で絵に表現されているか改めて考えさせられた。 たとえば、不思議に歪んだ教会の絵ではイエスが消えて、農婦が脇道を歩いている。キリスト教が人々に救いをもたらせずに滅んでゆく姿と、教義とは無関係にたくましく生きる農婦の姿をゴッホは1枚の絵に描いたのだ。崩壊する教会は異様なオーラを放っていて、十字架上のイエスが重なってもいる。この絵の不気味な迫力が解き明かされたと感じた。 また「種まく人」と「刈り入れる人」は一般的には生と死の対比と考えられている。表面的には確かにそうだが、著者は画家が意識しないまま表現してしまった真実にまで考察を進める。全てのものが恐ろしいまでに輝き、色の洪水が画面にいのちのみなぎりをもたらしている。コッホの場合、死の主題を描いても、過剰な生命が画面に溢れかえっているのだ。芸術家の底知れぬ深みからいのちの絵が生まれてきたことが分かる。 一流の専門家にしかなしえない仕事に圧倒され、ゴッホの芸術の深淵に目を開かれた。多くの人に勧めたい名著である。