適度な貧乏が原動力だ

著者の的川泰宣さんは、なぜ人は宇宙に惹かれるのか、と問いかけ、そこには、「好奇心」「冒険心」「匠の心」という3つの心があるからだと説く。 日本の宇宙開発の父、糸川博士は、名著『逆転の発想』にあるとおり、奇想天外のアイデアを思いつく先生だったという。その糸川博士に対してマスコミがネガティブキャンペーンを展開したエピソードも記されている。本書では社名を出していないが、記憶では朝日新聞社である。予算も人材も無いなか進んでいた日本初の人工衛星打ち上げプロジェクトへの波及を懸念した糸川博士は、55歳の若さで東大を辞職した。 半世紀遡って、アメリカのロケットの父、ロバート・ゴダードもニューヨークタイムスから「狂人」扱いされたという。 そして、日本のお家芸となるX線天文衛星の初号機「はくちょう」――はくちょうが活躍していた頃、各国のX線天文衛星が壊れるというアクシデントが発生する。心ないマスコミは、これを「日本が妨害電波を出したためではないか」(109ページ)という記事にしたそうである。 的川さんは、はやぶさプロジェクトを通じ、「町工場の職人さんたちは、太陽系の始まりとかそういったことにはあまり興味がありません。ひたすら『難しいものを作る』ということに専念」していることにカルチャーショックを覚えたという。冒頭で「匠の心」を挙げたのは、そのことがあるからだとか。 的川さんは、はやぶさ成功の原動力として、「適度な貧乏」を挙げている。 「予算が少ないので手分けして全国を回って作った探査機だからこそ、システムの隅々までみんなが知っていた。だからこそ、「はやぶさ」のようなトラブルに際してもアイデアの「引き出し」を使うことができたのです」(188ページ)。「しかし、誤解のないようにあえて付け加えますが、私は決して貧乏に価値があると言いたいわけではありません。大事なのはあくまでも「志」であり、「志」があれば貧乏という逆境もむしろプラスに働くということを言いたかったわけです」(188ページ)。