これまでの心理学の情けなさ

効果量・検定力・信頼区間。きわめて重要だがなぜか知られていないこれらの解説が、文系人間にもよくわかるように書かれている(数式や論理式が出てくるのでやや難しいが)。 そしてこの内容が理解できると思うのが、これまでの心理学の知見の危うさ。取るに足らない差でも、Nが大きいと「有意」になるのに、あたかも絶対的な差のように考察を進めてきた心理学。こんなリサーチリテラシーのない知見と言説に、大した信頼はできない。 そういう意味で、本書は心理学者と、カウンセラーでなく心理士と名乗りたいすべての人に読んでもらいたい一冊といえる。 ただ解説に際し、「○○はAという意味である。よくBと受け取られるが、それは誤解である」的な説明が多いのだが、Bのほうの説明が多く、Aに関する記述が少ない印象。そのため、『結局Aとはどういう意味だったのか、?』となりがちであるところが残念。外堀を埋めて本丸を落とし忘れた、というのが近い表現か。 また、信頼区間については「重要性は浸透し、(海外)論文でも報告されるようになったが、考察に活かされる例は少ない」と述べている。だとすればユーザーである日本の研究者らには参考にすべき論文が少なく、活用の仕方がわからない状況にあるわけだから、架空の研究例を想定し、分析の仕方、結果の書き方、活かした考察の例、といったもので1章くらい作るべきだったのではないだろうか。信頼区間の章は特に「で結局どう理解しどう活用すれば??」と置いてけぼりを食らった感が否めない。 蛇足だが、最終章は唐突にRのプログラム記述に充てられているが、本書内でRに触れられることはないわけだし、豊田氏などの分かりやすい解説書があるわけなので、はっきり言って蛇足な章であろう(とは言っても、検定力や効果量に関する豊田氏らの引用が1つもないところからみて、敢えて無視していると思われるが) 以上から、隔靴掻痒の箇所が散見されるものの、このテーマに焦点を当てて書かれた意欲的な書であることは間違いなく、心理学を学ぶ者と研究する者、そして実践する者に一読を勧めたい。