たいへん長い小説であり読み慣れている人でも一週間から十日はかかる。だが仏陀をはじめ登場人物は魅力的で、当時のインドの思想文化、社会秩序風習などが面白く飽きさせない。 作者は現在の仏教界隈の多数派解釈からはおそらく意図的に逸脱している。梵我一如、無我と非我、輪廻の克服、そしてガウタマ仏陀の「見込み違い」「過ち」。仏教を少々学んだことのある人にはその解釈は刺激的で斬新であり、自らの仏教を見直し深めるものとなるだろう。また仏教をそれほど知らない人にもわかりやすく、仏教、仏陀の魅力を知るにうってつけだろう。 読み物として、仏道に反し悪人として名高いデーヴァダッタの烈しい生き様がもっとも人間らしく共感を覚えさせるのは面白く秀逸だと思った。 またマハーカッサパら出家者と、ヴィマラキールティら在家者の衝突、そこから明らかとなる教団内の不破は、のちの仏教分裂を暗示しているに違いなく興味深い。 読後感は爽やかで、人と語りたくなる。