所謂「聖徳太子」である厩戸王子や、その息子である山背大兄王子が主人公ということになる作品だ。彼らは斑鳩の地に宮を営んだので「斑鳩王」という異称も有するのだ。 作中にも「斑鳩宮」や「斑鳩寺」という場所が登場する。ここで言う「斑鳩寺」はあの「法隆寺」のことだ。 本作は厩戸王子の晩年、そして山背大兄王子が滅ぼされて行くという経過が扱われている。故に「慟哭」なのだ。 厩戸王子は、高い理想の下に活躍したとされていて「伝説的な聖人君子」のような扱いで、所謂「聖徳太子」として知られている。「皇太子として摂政を務めた」と伝えられる訳だが、実際には豪族達や王家(皇室)の人達等の有力者達の様々なバランスの上で政務を掌った政治家として、苦しみながら難しい活動を続けたという一面が在り、晩年近くには寧ろ「微妙な立場の有力者」ということであったようだ。本作ではそういう「微妙な立場の有力者」という様子が描かれる。 作品の面白さ、或いは作者の凄さということにもなるのであろうが、本作は執筆時点での「最新の考古学的調査、調査に基づく考察を通じて明らかになった」という事実を踏まえながら、「そういう事実の背後に在ったであろう関係者のドラマ」を紡いでいるという辺りになるのだと思う。 厩戸王子が在った時代、更に少し後までは寧ろ「大王」と呼ばれた「天皇」に関して、数在るその陵墓の一部が考古学的調査の対象となっている。厩戸王子と共に在ったという推古天皇の父の陵墓と推定される場所もそうした調査の対象となった経過が在る。その調査で明らかになったのは、「大王」を葬るべく造られた陵墓であるが、或る時点で改修が加えられ、最初に「大王」が葬られたと見受けられる場所を動かして新たな棺を加えた痕跡が見受けられるというのだ。 この「後から新たな棺を加えた?」というのが、推古天皇が自身の母を葬るために「大王」の墳墓に改修を加えたとされていて、それが進められようという中での厩戸王子の苦衷が、本作の物語の前半部の底流となっている。 厩戸王子が登場するような、古代世界を舞台にする小説ではよく知られているという作者による作品を新たに、詳しい解説を添えて文庫化したという本書…なかなかに価値が高いかもしれない。