静かに強く生き続けた女性の物語が本作である。松姫こと信松尼が起こした「信松院」という曹洞宗の禅寺は現在も西八王子に在って活動しているそうだ。(振り返ると「八王子市」という住所の場所を訪ねたことが一度か二度在ったような気がするが、「信松院」どころか、八王子は訪ねた記憶も無いのが残念だ…)
「名門の中の名門」という感であった「武田家」の「非常に有名であった当主の娘」というだけで或る種の“カリスマ性”のようなものが生じたのかもしれない。が、松姫はそれを鼻に掛けるのでもなく、自身が武田家の人間ということで一定の敬意を払ってくれる人達を含めて、誰に対しても謙虚で、自身の活動に協力してくれる人々を尊重しようとし続けた。史実として検証する術もないが、或いは旧領国の美しい風景を想わせる美しい織物を使って仕立てた着物と、それに纏わる想い出が忘れられずに養蚕や織物造りに、僧侶としての活動の傍らで打ち込んだのかもしれない。
そんな物語が綴られた本作…読後にじわりと温まるような余韻が拡がる。出自に驕ることなく、一生懸命に一族の幼い娘達を育て、支援者への感謝を忘れずに求道者として生き続けた女性の姿…「教えられる」ような何かが在る。知られているような、それ程知名度が高くもないような、色々な人物の好い物語を伝えてくれる作者の“名作”として読み継がれることになりそうな作品だった。
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