著者の東郷茂徳(1882-1950)は大正時代から昭和の始めの時期に外交官であった人物だ。そして戦前には幾つも例が在るが、職業外交官が外務大臣に抜擢されることも在った。そういう型で外務大臣を二度務めている。務めた時期は、一度目が太平洋戦争に突入していく時期である東条英機内閣で、二度目は終戦へ向かって行く鈴木貫太郎内閣である。あの大戦の幕開けと幕引きという要所で外交を担っていたのだ。
あの大戦の幕開けと幕引きという要所で外交を担っていた東郷茂徳だが、終戦の時に大臣を退いた後、体調を崩して療養するような場面も在ったのだが「戦犯容疑者」ということになってしまっている。そうした中で、回顧録を綴り、開戦時の状況等を説く参考資料にしようという意図が在ったようである。そうして綴られたのが本書ということになる。
全般には「明治・大正時代の小説か何か?」を想起させるような、典雅な雰囲気に溢れた、美しいと同時に力強い筆致で綴られた手記である。何か「信念と、信念を支える強い矜持、矜持を紡いだ高い教養」というようなモノを裡に秘めた「気骨の人」というような、筆者の人物像を強く感じる。
少し古い文庫が「改版」で改めて登場したということ自体、本書の「価値の高さ」を物語って余りあるような気がする。そして「日本の“あの頃”の当事者たる要人」が綴った回顧録として国外からも注目される本書は、色々と外国語にも翻訳されているようだ。佳い本と出逢ったと思う。
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