言葉の持つ力を信じる人々

登場人物たちは皆、言葉の重さを知っている人々、言葉の持つ力を信じている人々で、何か疑問等があると即辞書を引く(画面にも文字があふれる)。 映画版と異なって、ドラマ版は池田エライザ演じる岸辺みどりを主人公として、映画で言えば後半の13年後からスタートしている。ただ辞書を作るという、それだけの話なのに一気見の面白さである。登場人物も皆良い人ばかりで、悪い人は一人も出て来ない。 このドラマの後半は、2020年のコロナ禍の状況となり、時代を移して13年後からの話にしたのは、ここに意味があったのかと気付かされる。当たり前の日常が崩れ、ドラマの人々も常時マスクを着用し、松本先生(柴田恭兵)の入院先の病院も面会禁止だ。 松本先生は映画と異なって手術が成功した後、入院病床から、メールで力強いメッセージを送る。「病を得た身としては、やはり死について考えます。もう十分に生きたはずなのに、恥ずかしながら堪らなく恐ろしくなることもあります。そんな時、こんな想像をするのです。私の死後、あなた方が言葉を潤沢に巧みに使い、私の話をしてくれる。その時私は、確かにそこに、あなた方と共にあるのです。言葉は死者とも、そしてまだ生まれていない者とさえ、つながる力を持っているのだと……、つながるために、人は言葉を生み出したのだと、そう思えてならないのです。その瞬間、死への恐怖は打ち上がった後の花火の様に散り去って、消えることのない星の輝きだけが残るのです。新型コロナウイルスによって人々が分断されてしまった今、まさに言葉の力が試されているのかもしれません。むろん言葉は負けないでしょう。距離を超え、時も超え大切な何かとつながる役目を見事果たしてくれることでしょう。」さすが日本語学者の文章である。実に格調が高い名文だ。 ラスト「大渡海」の刊行祝賀会において、リモートで松本先生は佐々木薫(渡辺真起子)、天童充(前田旺志郎)、西岡正志(向井理)、荒木公平(岩松了)、馬締光也(野田洋次郎)、岸辺の順でひとりひとりに語り掛けてゆく。ここで当事者以上に滂沱の涙、泣かない者はいるだろうか。特に度々描写された天童のエピソードは感動もので、見事な伏線回収。 最後は2024年4月となって、ほぼドラマの初回放映時の現実と重なる。松本先生も、荒木も次の辞書作りを目指し、岸辺も成長しいっぱしの編集員となり、ドラマは終わらない。