案外、「清末」以外の記述も多い

・清末の上海で発行された絵入雑誌『点石斎画報』を基にした、伝統中国の民俗図譜シリーズ。皇帝や士大夫といった上流階層ではなく、宮中・戦場でもなく、【平時の一般庶民の暮らし】を知る格好の一シリーズ。中華モノの創作者なら、他の時代が舞台・モチーフだからといって、【シリーズ名にある「清末」の二字に引きずられて本書を手に取らないのはもったいない】。図書館や本屋で軽く目を通すだけでもしてほしい。確かに、シリーズ名通り清末が主体ではある。しかし、他の時代への言及、他の時代の図画、出土品の写真などの図版も多い。シリーズ通じて、1冊4000円前後と高価だが、その価値はある。 ・本シリーズは「庶民」に焦点が当たっている。衣食(主に食材。レストランの類は『中国生業図譜』)住と、相続・婚姻・離婚の家族関係の制度(婚姻・葬儀の儀式は前巻の『中国社会・遊戯図譜』に詳しい)の巻。「衣」は、皇帝、大臣、武将、妃嬪の衣装ではなく、中国服飾史本では記述が薄い庶民の普段着、「住」も庶民の住まいが主。現代日本語だけでなく、漢語(漢字)での衣、建物、家具の名前が書かれている。名前が分からぬと調べようがない。また、創作上「漢語の名前が分かる」というのは非常な強み。 ・シリーズ名が「清末の絵入雑誌『点石斎画報』で読む」なので、清代の服装しか取り上げていないと思いきや、明代以前の漢服(漢族の伝統衣装)にも基礎的なことが一通り取り上げられている。ページ数では中国服飾史本のほうが上。だが、ジャケット、ベスト、シャツ、ズボン、スカートに当たる衣の種類、衿の種類と、その漢語の名前が分かりやすい。さらに、帽子、靴、清代男女の髪型、女性の下着、衣の素材(意外と中国服飾史本では衣の素材は記述が薄い)も書いてある。 ・宮殿や寺院でない、一般の民家・商店が主体。寝室(室内のしつらえをこまごま書いてある)、台所、トイレ、家具にページを割いて、事細かに書いてある。中国伝統建築本だと、外観は詳しくとも、内装、特に家具の配置など、「室内のしつらえ」は薄いことが多い。なお、風呂は『中国生業図譜』に「澡堂(銭湯)」として取り上げられている。