サイコパスVS.サイコパス

この作品はCriterion版のブルーレイを持っていたのだが、黒澤明監督作品の中でも特に面白い作品なので、4KHD版が出ると知って迷わず予約した。そして、今回鑑賞してその画質の違いに驚いた。Criterion版の画面は物凄く明るく、ハイコントラスト。これだけを見ていた時は明るくて良いなぁと、そんなに気にかけなかったが、4KHD版は全面渋く落ち着いた画調。もちろん傷ひとつなく、綺麗な画質である。 作品の面白さは今更言うことはないのだが、一点の瑕疵は犯人の設定だと思う。これは公開当時から言われていたことらしいのだが、犯人の山崎努はまだインターンであるが医師である。(多分)国立大学の医学部を出て、現在はその附属の病院に勤務している設定であろう。将来開業するのか、病院の勤務医になるのか分からないが、昭和30年代の医師だったら未来は明るいのではないか。もちろん当時のインターン生活は、ろくに給料も出ず貧しかったのは知っているが、この修業時代を我慢して過ごせば、立派な医師として働き、それなりの高い収入を得るはずである。上手く行けば、自分もハイクラスの天国の方に行ける可能性がある職業なのだ。それが、特に個人的な恨みがある訳でもない権藤氏(間違えて使用人)の子供を誘拐し、その後ヘロイン中毒者を何人も殺すというリスクを犯すのは合理的ではないというものだ。自分もそれはその通りだと思い、その設定(職業)に納得できなかったのだが、現在の目で見ると、山崎努の言動・行動は、平然とヘロイン中毒患者を殺すなどサイコパスそのものである。黒澤明他シナリオ執筆者が当時どれほどそれを意識していたかは不明だが、要するに医師になってはいけない人だったのだ。 また、仲代達矢も狂気の刑事で、犯人を死刑にするために(自分で言うか!)、新聞記者に偽情報を書かせ、わざと泳がせた結果、麻薬中毒者とは言え余計な人を殺させる。最後の逮捕の瞬間には「これでお前は死刑だ!」と叫ぶ。まだ取り調べも、裁判も行っていない段階で、そう思っていても刑事がこんなこと言っては駄目だろう。ただ当時はまだ冤罪事件も多く、警察が強引に自白させ、犯人にしてしまうというのは良くあった話だ。それを踏まえてこういう刑事像を作ったのなら大したものだが、そうではあるまい。黒澤明と脚本家チームにとっては、仲代刑事はあくまでも正義のヒーローである。