故・河合隼雄氏の一般市民向けに書かれた連載記事をまとめたのが本書。文化庁長官を務めたユング派精神分析の我が国の第一人者が著者だから、さぞ難解な展開が待ち受けているのでは・・・と思いきや、そういう泰斗だからこそ、普通の読者を想定して平易な言葉で、日常の心の持ちようやら、人づきあいにおける肩の力の抜きようやらを、説いてくれる。最も頷けたのは、第22章の「自立は依存によって裏付けられている」の一節。早い時期からの自立が必要と親が早合点して育てられた子供に、言葉の発達の遅れがみられたという例から、親への依存を十分に味わった後、子供は勝手に自立してゆくものだ・・・との指摘は、私の周囲に見られる数例を説明してくれるに余りあるものだった。一方で、誰かがどこかで既に述べたような記述も多く、河合氏の著述にしては冴えや切れがいま一つといったところ。
数年前にNHKの朝ドラで好評を博した「花子とアン」の主人公のモデルとなった村岡花子の代表作といえば、この「赤毛のアン」の翻訳でしょう。日本の子供たちに初めて紹介したのは、1952年だそうですが、小学生の世界でも身の回りの物は変わっていきますから、平成の子供に当時のオリジナル版をそのまま読ませても不思議な表情を見せることが多いだろうと想像できます。孫娘の村岡美枝氏があとがきで述べているように、「原作のエピソードをすべてもりこみ、・・・読みやすい形に・・・手なおしをした部分もありますが、「さんざし」「いちご水」などはあえてそのままにし(て)・・・情緒をそこなわないように心がけ」たようです。当欄で、原訳でないことを惜しむ意見を見ましたが、私はとても親切な配慮だと思いました。おしゃべりで好奇心旺盛なアンの活躍と脱線ぶりや、ラストの優しい決意がよく表現しきれています。それよりも登場人物が多く複雑に感じられそうなので、恐らく子供以上に夢中に読み通したおとなが助け船を出してやれればいいですね。
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こころの処方箋
故・河合隼雄氏の一般市民向けに書かれた連載記事をまとめたのが本書。文化庁長官を務めたユング派精神分析の我が国の第一人者が著者だから、さぞ難解な展開が待ち受けているのでは・・・と思いきや、そういう泰斗だからこそ、普通の読者を想定して平易な言葉で、日常の心の持ちようやら、人づきあいにおける肩の力の抜きようやらを、説いてくれる。最も頷けたのは、第22章の「自立は依存によって裏付けられている」の一節。早い時期からの自立が必要と親が早合点して育てられた子供に、言葉の発達の遅れがみられたという例から、親への依存を十分に味わった後、子供は勝手に自立してゆくものだ・・・との指摘は、私の周囲に見られる数例を説明してくれるに余りあるものだった。一方で、誰かがどこかで既に述べたような記述も多く、河合氏の著述にしては冴えや切れがいま一つといったところ。
赤毛のアン (新装版)
数年前にNHKの朝ドラで好評を博した「花子とアン」の主人公のモデルとなった村岡花子の代表作といえば、この「赤毛のアン」の翻訳でしょう。日本の子供たちに初めて紹介したのは、1952年だそうですが、小学生の世界でも身の回りの物は変わっていきますから、平成の子供に当時のオリジナル版をそのまま読ませても不思議な表情を見せることが多いだろうと想像できます。孫娘の村岡美枝氏があとがきで述べているように、「原作のエピソードをすべてもりこみ、・・・読みやすい形に・・・手なおしをした部分もありますが、「さんざし」「いちご水」などはあえてそのままにし(て)・・・情緒をそこなわないように心がけ」たようです。当欄で、原訳でないことを惜しむ意見を見ましたが、私はとても親切な配慮だと思いました。おしゃべりで好奇心旺盛なアンの活躍と脱線ぶりや、ラストの優しい決意がよく表現しきれています。それよりも登場人物が多く複雑に感じられそうなので、恐らく子供以上に夢中に読み通したおとなが助け船を出してやれればいいですね。