村上春樹は、昔ながらの「語り部」だと思う。この軽いエッセイを読んでいてもそれが伺える。 「ウィスキーを寝かせている倉庫に行くとね、今でも夜中になると彼の足音が聞こえるんだ。聞き間違えようもない、特徴的な彼の足音だ。死んでからも、樽の具合を調べてるのさ」 アイラ島のボウモア蒸留所に勤め、98 歳まで生きた樽作り職人の話だ。「科学万能の現代に生きた人間」としてはありえない話だが、たとえば『源氏物語』などを起点として視線を据えれば、その延長線上にこの話があるととらえるのはそんなに難しい話ではない。 とか難しい話はともかく、ウィスキーが飲みたくなる一冊でした。