実は小説ではありません

この本は冒頭で村上さんが書いているように、小説ではありません。エッセイでもなく、実話に基づくある種のインタビュー記事のようなものです。 9編の話が入っておりますが、不思議な話が幾つも出てきます。でも村上さん曰く、事実をできるだけ忠実に表現したスケッチのようなものだそうです。 「彼が私に向かって言った最後のことばは私の耳にまだはっきりと焼きついています。『カロ・タクシージ-----よいご旅行を』」そう言って彼女は膝の上で両手をあわせた。「素敵なことばだと思いませんか?そのことばを思い出すたびに私はこんな風に思うんです。私の人生は既に多くの部分を失ってしまったけど、それはひとつの部分を終えたというだけのことであって、まだこれから先何かをそこから得ることができるはずだってね」彼女はため息をつき、それから唇を少しだけ横に広げるようにして微笑んだ。 ---「タクシーに乗った男」より 読んでみるとどれもおもしろい話で、村上さんの文章を介すると、どの話も少し膨らませるだけで1つづつの小説になりそうです。